概要
この「人工知能基本計画骨子(案)」は、日本が「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」となることを目指し、AI技術の急速な進歩と国際競争激化に対応するための国家戦略を提示しています。
日本の現状として、AIの利活用が十分に進んでおらず、投資も経済規模に比して少ないという課題認識から、「反転攻勢」の好機を捉え、官民一体でAIイノベーションを推進する強い意志が示されています。
主要なテーマと重要事項
1. 基本構想:AIイノベーションによる社会課題解決と国家目標の実現
AIの必要不可欠性: AI、特に生成AIは、世界の持続可能な発展に不可欠な技術であり、各国の国力を左右するものとして開発競争が激化しています。
日本の現状認識と機会: 日本はAIの利活用が遅れているが、質の高いデータを活かした「AIイノベーション」で「反転攻勢」できる好機を迎えています。
AIがもたらす変革: AIは、効率化・生産性向上に留まらず、新事業・新市場創造、社会課題解決(人口減少、投資不足、賃金停滞など)、国民生活の質の向上(健康・医療、防災)、安全保障の高度化に貢献するとされています。
「AIは、効率化・⽣産性向上による適時的確な業務の実施に留まらず、新たな発展に つながる新事業・新市場創造、社会課題解決、包摂的成⻑を可能に。「⼈⼝減少」、 「国内への投資不⾜」、「賃⾦停滞」といった⽇本の経済社会の⻑年の課題を解決。」
リスクへの対応: AIがもたらす技術的リスク(誤判断、ハルシネーション)だけでなく、社会的リスク(差別助長、犯罪利用、プライバシー侵害、雇用・経済不安)、安全保障リスク(サイバー攻撃)にも言及し、これらのリスクを適時適切に把握し、透明性・公平性・安全性を確保することで国民の不安払拭を図るとしています。
国家目標: 「官⺠が⼀致団結して、AIを基軸として、新たな経済発展と安全・安⼼な社会を構築」し、「⼈間中⼼のAI社会原則」を堅持しながら、「イノベーション促進とリスク対応の両⽴」により、「世界で最もAIを開発・活⽤しやすい国」を目指します。
2. 基本的な方針:3原則と4つの柱
「AI法」の基本理念を踏まえ、以下の3原則と4つの基本的な方針が掲げられています。
3原則:
人間中心のAI社会原則: 人とAIが協働し、人間が創造力を発揮できる社会を実現。
アジャイルな対応: 変化に即応し、柔軟かつ迅速にPDCAサイクルを回す。
内外一体の取り組み: 国内政策と対外政策を有機的に組み合わせ、積極的な国際連携を通じて、日本を多様なAIイノベーションの結節点とする。
4つの基本的な方針:
AI利活用の加速的推進(「AIを使う」): 日本社会全体で世界最先端のAI技術を積極的に利活用し、新たなイノベーションを創出。データの集積・利活用、特に組織を超えたデータ共有を促進。
AI開発力の戦略的強化(「AIを創る」): インフラからアプリまでのAIエコシステムに関する各層での開発を進め、「信頼できるAI」を開発。研究開発から社会実装への好循環を実現。
AIガバナンスの主導(「AIの信頼性を高める」): 人とAIが協働し、イノベーションの好循環を実現するためにAIの適正性を確保するガバナンスを構築。国際的なガバナンスを日本が主導。
AI社会に向けた継続的変革(「AIと協働する」): 人とAIの協働のため、産業や雇用のあり方、制度や社会の仕組みを先導的かつ継続的に変革。AI人材の育成・確保に加え、「人間力」の向上を図る。
3. 具体的な施策:AIの利活用、開発、ガバナンス、社会変革
具体的な施策は多岐にわたり、以下の領域で展開されます。
AI利活用の加速的推進:
政府・自治体でのAIの徹底した利活用(ガバメントAIの推進、業務の合理化・効率化)。
社会課題解決に向けたAI利活用(医療、介護、教育、防災、防衛力強化、警察活動高度化など)。
新しい事業・産業の創出(フィジカルAIの先導導入支援、スタートアップ支援)。
規制・制度の見直し(AI社会実装のための規制・制度点検、個人情報保護法の改正検討)。
「AI利活⽤を前提に既存の規制や制度を⾒直すことを含め、制度改⾰等を先導的に推進。」
AI開発力の戦略的強化:
日本国内のAI開発力強化(データ連携基盤構築、トップ人材確保、マルチモーダル化、評価基盤整備、グローバルサウスへの海外市場展開支援)。
日本の勝ち筋となるAIモデル等の開発推進(AIロボット、AI for Science、創薬AI)。
信頼できるAI基盤モデルの開発(日本の文化・習慣を踏まえたAI、質の高い日本語データの整備)。
「国家主権と安全保障の観点から、⽇本の⽂化・習慣等も踏まえた信頼できる基盤モデ ルを開発。」
AI開発・利用基盤の増強・確保(データセンター、ネットワーク、計算資源、電力等のAIインフラ整備、高性能AI半導体、富岳NEXTの開発)。
AIガバナンスの主導:
信頼できるAIエコシステムの構築(AI法に基づく調査研究、ガイドライン整備、サイバー事案対処能力向上、AIセーフティ・インスティテュート(AISI)の強化、AI生成コンテンツ判別技術開発支援)。
グローバルサウスを含めた国際協調(広島AIプロセス、国際規格策定、軍事領域AIに関する国際議論への参画)。
「AIガバナンスに関する国際的枠組み「広島AIプロセス」を主導した⽇本として、 引き続きAIガバナンスにおける国際協調を主導。」
AI社会に向けた継続的変革:
AIを基軸とした産業構造の構築(AIトランスフォーメーションの促進、地域AIインフラ活用による地域産業・雇用創出)。
AI社会における枠組みの検討・実証(規制・制度の見直し、民事責任のあり方検討、雇用への影響分析と対策)。
「AIがもたらす雇⽤への影響について丁寧に分析し、新しい働き⽅に向けた包括的 な教育・リスキリング⽀援等の対策を講じる、というプロセスを継続的に実施する。」
AI人材の育成・確保(エンジニア、研究者、データマネジメント人材の育成、リスキリング支援、AIリテラシー向上支援)。
AI時代における人間力の向上支援(人とAIの役割分担の模索、教育・働き方の検討)。
4. 計画推進体制とフォローアップ
推進体制: 内閣総理大臣を本部長とする人工知能戦略本部、人工知能戦略推進会議を中心に、関係府省庁が緊密に連携。
フォローアップ: 人工知能戦略本部で推進状況を把握し、人工知能戦略専門調査会の有識者意見を聴取しながらフォローアップを実施。
計画の変更: AI関連技術の急速な特性を踏まえ、当面は毎年変更を行うとし、最新の技術動向を積極的に反映させるため、産学官で連携。
他の計画との連携: 「科学技術・イノベーション基本法」に基づく計画や「デジタル社会形成基本法」に基づく重点計画など、関連計画との連携・整合を図る。
結論
この「人工知能基本計画骨子(案)」は、日本のAI戦略が、これまでの遅れを取り戻し、国際競争力を強化するための具体的な方向性を示しています。特に、「イノベーション促進とリスク対応の両立」「内外一体の取り組み」という方針の下、政府自らがAIを先導的に利活用し、基盤技術開発から社会実装、そして国際的なガバナンス構築までを主導していく強い決意が読み取れます。AI人材の育成や社会構造の変革にも重点を置き、持続可能な「人間中心のAI社会」の実現を目指す、包括的かつ野心的な計画であると言えます。
