STEP3骨格を設計する/5-2/提案の骨格を設計する

提案書のコンセプト(勝ちテーマ)の作り方 ― 発注者の課題と自社の強みの交点を30字で言い切る

提案書のコンセプトは、「この提案を選ぶと発注者の最大の課題がこう解決する」を30字程度の一文で表した勝ちテーマ(提案コンセプト)として作ります。課題だけから作ると誰でも言えるテーマに、強みだけから作ると発注者に関係ない自慢になるため、両方の交点から選ぶことが大切です。このページでは、入札・プロポーザルの企画提案書で使える課題×強みマトリクス、30字テストの手順、NGテーマと良いテーマの例を紹介し、勝ちテーマを全章で繰り返す方法まで解説します。

執筆:村井宗明(元文部科学大臣政務官・AIエンジニア)公開:更新:読了目安:約10分

要点(結論)

勝ちテーマ(提案コンセプト)とは、「この提案を選ぶと発注者の最大の課題がこう解決する」を30字程度の一文で表した提案の中心メッセージです。発注者の課題と自社の強みをマトリクスで掛け合わせて候補を出し、30字テストで絞り込み、各章の冒頭で言い換えて繰り返します。勝ちテーマがあると、各章の記述が一本の筋でつながり、評価者の記憶に残ります。

このページの目次
  1. 一言で言えるか(30字テスト)
  2. 発注者の最大の課題と自社の強みの交点
  3. コンセプトを全章で繰り返す
  4. 評価者の視点:ここで点が分かれる理由
  5. 課題×強みのマトリクスでテーマ候補を洗い出す
  6. 30字テストの手順
  7. NGテーマと良いテーマの対比10組
  8. 業務種別ごとの例文
  9. 書き換え手順(チェックリスト)
  10. よくある失敗パターンと処方箋
  11. AIに書き直させるときの指示例

一言で言えるか(30字テスト)

勝ちテーマは、30字程度の一文で言えることが目安です。長くなるのは、何を一番伝えたいかが決まっていない証拠です。候補を30字程度まで削る具体的な手順は、この節の後半「30字テストの手順」で示します。

  • 悪い例: 「最新技術と豊富な実績を活かし、住民サービスの向上と業務効率化と職員の負担軽減を総合的に実現します」
  • 良い例: 「窓口の待ち時間を半分にする、職員が使い続けられる仕組み」

悪い例は「誰が言っても同じ」内容で、評価者の記憶に残りません。良い例は、発注者の課題(待ち時間)と提案の特徴(職員が使い続けられる)が一文に入っています。

発注者の最大の課題と自社の強みの交点

勝ちテーマは、次の2つの交点から作ります。

  1. 発注者の最大の課題:計画書・予算資料・議会答弁などの事前調査で見えた、発注者が最も解決したいこと
  2. 自社の強み:競合と比べて自社が具体的な根拠をもって示せること

たとえば「観光客の滞在時間が短く消費につながらない」という課題と「周遊データ分析と小規模事業者の巻き込み実績」という強みの交点からは、「『通過する観光』を『泊まる観光』に変えるデータ周遊策」というテーマが生まれます。「システム導入後に職員が使わず定着しない」という課題と「導入後の伴走支援を標準で提供する体制」という強みの交点からは、「導入して終わりにしない、定着まで伴走するDX」が生まれます。

課題だけから作ると「どの会社でも言える」テーマになり、強みだけから作ると「発注者に関係ない自慢」になります。必ず両方が入っているかを確認します。交点を表で網羅的に洗い出す方法は、この節の後半「課題×強みのマトリクスでテーマ候補を洗い出す」で示します。

コンセプトを全章で繰り返す

勝ちテーマは、表紙・冒頭の提案概要だけでなく、各章の冒頭で繰り返し登場させます。たとえば勝ちテーマが「定着まで伴走するDX」なら、実施方針では「伴走支援の3段階」、実施体制では「伴走支援専任者の配置」、スケジュールでは「定着支援期間の設定」として具体化します。章ごとに表現を変えながら同じテーマを示すことで、評価者は提案全体を一貫したものとして理解します。

評価者の視点:ここで点が分かれる理由

評価者は、複数社の提案書を続けて読んだ後、合議の場で「どの提案が良かったか」を話し合います。そのとき評価者の口から出るのは、提案書の細部ではなく「A社は待ち時間半減の提案」「B社は定着支援の提案」といった一言の要約です。勝ちテーマは、この合議の場で自社の提案を呼んでもらうための「名前」です。名前がない提案は「ふつうの提案」と呼ばれ、点数も平均に収束しがちです。

また、勝ちテーマは「業務の理解度」の採点にも直接効きます。発注者の最大の課題を言い当てたテーマを掲げていれば、評価者は「この提案者はうちの事情を分かっている」と判断し、理解度の項目で高い段階評価を付けやすくなります。逆に、課題と無関係な自社の売り文句をテーマにすると、理解度の項目で「仕様書を読んだだけ」という評価になりやすくなります。

課題×強みのマトリクスでテーマ候補を洗い出す

勝ちテーマは思いつきではなく、表で候補を出してから選びます。縦に発注者の課題(事前調査で把握したものを3〜5個)、横に自社の強み(根拠を示せるものを3〜5個)を並べ、交点ごとに「この強みでこの課題を解決すると、どんな一文になるか」を書き込みます。

課題\強み 伴走支援の専任体制 同規模自治体での導入実績 職員向け研修教材の自社開発
導入後に職員が使わず定着しない ◎ 定着まで伴走するDX ○ 同規模での定着実績を再現 ○ 教材で「使い方が分かる」を標準化
繁忙期の窓口待ち時間が長い ○ 繁忙期前に伴走で運用を固める ◎ 同規模で待ち時間を短縮した手順を適用 △ 教材だけでは待ち時間に直結しない
高齢者がオンライン手続きを使えない △ 伴走は職員向けで住民には届きにくい ○ 同規模での住民サポート窓口の実績 △ 職員教材は住民には使えない

交点の評価は、◎(課題と強みが直結し根拠も示せる)、○(関係はあるが根拠が弱い)、△(結びつきが薄い)の3段階で付けます。◎が付いた交点が勝ちテーマの候補です。◎が複数あるときは、評価基準の配点が大きい項目に効く候補、または発注者の計画書で優先度が高い課題に対応する候補を選びます。

30字テストの手順

候補を一文にするときは、次の順に短くしていきます。

  1. 要素を3つに限定する:「発注者の課題」「解決の方向」「自社の特徴」の3要素だけを残し、修飾語(最新・豊富・総合的・最適)をすべて消します。
  2. 数値か動詞で具体化する:「向上」「推進」「強化」といった名詞止めを、「半分にする」「泊まる観光に変える」「届く」のように結果が目に浮かぶ動詞か数値に置き換えます。
  3. 30字で区切る:30字を超えたら、自社の特徴から削ります。課題と解決の方向が残っていれば、特徴は各章の中で具体化できます。
  4. 発注者名を入れ替えて読む:他の自治体名に置き換えても成り立つテーマは、課題の捉え方が浅い証拠です。発注者固有の課題(計画名・目標値・地域事情)が入るまで戻ります。
  5. 競合名を入れ替えて読む:競合が同じテーマを掲げられるなら、強みの切り口が弱い証拠です。自社しか根拠を出せない要素を足します。

NGテーマと良いテーマの対比10組

No. NGテーマ NGの理由 良いテーマ
1 住民サービスの向上と業務効率化を実現 抽象的で誰でも言える 窓口の待ち時間を半分にする、職員が使い続けられる仕組み
2 当社の最新AI技術で貴市のDXを加速 自社都合(技術自慢)で課題がない 問合せの7割を占める定型質問を、24時間自動応答で解決
3 仕様書に基づく確実な業務遂行 仕様のなぞりで提案がない 前回調査の回収率不足を、若年層向け設計で乗り越える住民調査
4 豊富な実績と経験を活かした安心の体制 自社都合で発注者の課題がない 同規模3市で実証した、担当者交代でも止まらない運用設計
5 地域の魅力を発信し観光振興に貢献 抽象的で解決の方向がない 「通過する観光」を「泊まる観光」に変えるデータ周遊策
6 ワンストップで総合的に支援 抽象的・何をするか不明 申請から交付まで、住民が窓口に来るのは1回だけ
7 高品質な成果物を納期内に納品 仕様のなぞり(当然のこと) 計画策定後の「使われない計画」を防ぐ、庁内実行体制づくり
8 最先端のクラウド基盤で安全・安心 自社都合・課題と無関係 災害時も止まらない、職員が自宅から運用できる基盤
9 住民参加型のイベントで賑わい創出 抽象的で誰でも言える 来場者の半数が市外から、翌年も来たくなる秋の3日間
10 研修を通じた職員のスキルアップ 仕様のなぞり 研修翌月から使える、現場の実務課題で学ぶ職員研修

NGテーマは3つの型に分類できます。抽象的(向上・推進・貢献で終わり、何がどう変わるか分からない)、自社都合(技術・実績・体制の自慢で、発注者の課題が入っていない)、仕様のなぞり(仕様書に書かれた当然の義務をテーマにしている)です。良いテーマは、発注者固有の課題と、変化の結果(数値・状態)が一文に入っています。

業務種別ごとの例文

ITシステム導入

悪い例: 「クラウド型文書管理システムで業務効率化を実現します」

良い例: 「決裁の滞留をなくす ― 平均決裁日数を5営業日から2営業日に」

なぜ良いか: 製品カテゴリ(クラウド型文書管理)ではなく、発注者の課題(決裁の滞留)と結果(日数)をテーマにしています。発注者の計画書に「決裁日数の短縮」が目標として書かれていれば、理解度の項目でも加点につながりやすくなります。

調査・計画策定

悪い例: 「客観的なデータに基づく実効性の高い計画を策定します」

良い例: 「策定した翌年度から動く計画 ― 担当課ごとの実行表までを成果物に」

なぜ良いか: 「実効性」という抽象語を、「翌年度から動く」「担当課ごとの実行表」という目に見える状態に置き換えています。計画が策定されても使われないという発注者の悩みに直接答えています。

イベント・広報

悪い例: 「市民と一体となった感動のイベントを創出します」

良い例: 「初参加の家族が翌年リピーターになる、子ども主役の市民まつり」

なぜ良いか: 「感動」という評価しようのない言葉を消し、「初参加→リピーター」という測定できる変化と、「子ども主役」という企画の切り口を入れています。

窓口・業務委託

悪い例: 「丁寧で迅速な窓口対応で住民満足度を高めます」

良い例: 「繁忙期でも待ち時間15分以内 ― 時間帯別の配置で混雑を平準化」

なぜ良いか: 「丁寧・迅速」は全社が書く言葉です。待ち時間の数値目標と、それを実現する方法(時間帯別配置)を入れることで、実施方針の章の予告にもなっています。

研修・人材育成

悪い例: 「職員のDX人材育成を推進します」

良い例: 「受講した職員が自分の課の業務改善を1件持ち帰る、実践型DX研修」

なぜ良いか: 「育成を推進」では何が変わるか分かりません。「業務改善を1件持ち帰る」という成果の単位を定めることで、効果の測り方まで予告しています。

書き換え手順(チェックリスト)

  • 事前調査で把握した発注者の課題を3〜5個、発注者の資料の言葉で書き出した
  • 根拠を示せる自社の強みを3〜5個書き出した(根拠のない強みは除外)
  • 課題×強みのマトリクスを作り、交点を◎○△で評価した
  • ◎の交点から、配点の大きい評価項目に効く候補を選んだ
  • 修飾語(最新・豊富・総合的・最適・丁寧・迅速)をすべて消した
  • 「向上・推進・強化・貢献」を、数値か結果が見える動詞に置き換えた
  • 30字程度に収めた(超えたら自社の特徴から削る)
  • 発注者名を入れ替えても成り立たないことを確認した(固有の課題が入っている)
  • 競合名を入れ替えても成り立たないことを確認した(自社しか根拠を出せない)
  • 各章の冒頭で、テーマを章の内容に合わせて言い換える計画を作った

よくある失敗パターンと処方箋

失敗パターン 何が起きるか 処方箋
テーマを2つ以上掲げる 焦点がぼけ、合議で呼ばれる名前がなくなる 1つに絞り、残りは独自提案の章の中で扱う
表紙にだけテーマを書き、本文で触れない 評価者がテーマと本文の関係を見つけられない 各章の冒頭1〜2行でテーマを章の内容として言い換える
キャッチコピーに凝りすぎる 意味が伝わらず、評価者が解釈に時間を使う 語呂よりも「課題+結果」が一読で分かる平易な文にする
自社の製品名・サービス名をテーマにする 匿名審査で社名・製品名が禁止されている場合は違反。許される場合も自社都合に見える 製品名を外し、発注者に起きる変化で言い換える
発注者の課題を推測で決めつける 「うちの課題はそこではない」と理解度で減点 計画書・議会答弁・予算資料に書かれた課題から選ぶ

AIに書き直させるときの指示例

あなたは自治体プロポーザルの提案書コンサルタントです。
以下の【発注者の課題】(事前調査で把握したもの)と【自社の強み】(根拠を示せるもの)から、
勝ちテーマ(提案コンセプト)の候補を5つ作ってください。
ルール:
1. 各候補は30字程度の一文。「発注者の課題」と「解決後の結果(数値または状態)」を必ず含む
2. 「向上・推進・強化・貢献・最適・最新・豊富・丁寧・迅速」は使わない
3. 製品名・自社名は入れない
4. 各候補について、どの評価項目の加点に効くか、競合が同じことを言えるかどうかを1行で添える
5. 最後に、最も推奨する1案とその理由を書く
【発注者の課題】(ここに貼り付け)
【自社の強み】(ここに貼り付け)
【評価基準】(ここに貼り付け)

よくある質問

Q勝ちテーマはキャッチコピーのように凝ったほうがよいですか。

A

凝る必要はありません。分かりやすさが最優先です。語呂のよさよりも、発注者の課題と解決の方向が一読で伝わることを重視してください。

Q発注者の最大の課題が分からないときはどうしますか。

A

仕様書の「背景」「目的」に書かれた文、総合計画や個別計画の該当施策の目標値、議会での質疑答弁の順に探します。それでも絞れない場合は、評価基準で最も配点が大きい項目の着眼点に書かれている言葉を課題とみなし、テーマを作ります。

Q勝ちテーマと独自提案は同じものですか。

A

違います。勝ちテーマは提案全体を貫く中心メッセージで、業務の理解度から実施体制まで全章に反映されます。独自提案は、仕様書を上回る追加の工夫で、独自提案の章に書きます。勝ちテーマを支える独自提案があれば理想的ですが、独自提案がテーマと無関係であっても構いません。

検索でよくある疑問

Q提案書のコンセプトが評価に影響するのはなぜ?

A

評価者は複数社の提案書を読んだ後の合議で、「A社は待ち時間半減の提案」のように一言の要約で各社を呼びます。勝ちテーマはこの場で自社の提案を呼んでもらうための名前で、名前がない提案は「ふつうの提案」として点数が平均に収束しがちです。発注者の最大の課題を言い当てたテーマは、業務の理解度の採点にも効きます。

Q提案コンセプトのNG例にはどんなものがある?

A

NGテーマは3つの型に分かれます。「住民サービスの向上と業務効率化を実現」のような抽象的なもの、「当社の最新AI技術で貴市のDXを加速」のような自社都合のもの、「仕様書に基づく確実な業務遂行」のような仕様のなぞりです。良いテーマには、発注者固有の課題と変化の結果(数値・状態)が一文に入っています。

Q勝ちテーマは提案書のどこに書く?

A

表紙と冒頭の提案概要だけでなく、各章の冒頭1〜2行で章の内容に合わせて言い換えて繰り返します。たとえば「定着まで伴走するDX」なら、実施方針では「伴走支援の3段階」、実施体制では「伴走支援専任者の配置」、スケジュールでは「定着支援期間の設定」として具体化します。表紙だけでは評価者が本文との関係を見つけられません。

参考資料

法令・制度の記述は、次の一次資料・公的資料で確認しています。