STEP2読む・選ぶ・調べる/第4章

入札の事前調査 ― 総合計画・予算・議会会議録・落札結果から「なぜ今この事業か」を掴む

入札の事前調査とは、仕様書には書かれていない「なぜ今この事業が必要か」「庁内でどれほど重視されているか」を、自治体が公開している資料から掴むことです。総合計画や自治体DX推進計画のKPI、予算書と主要な施策の成果説明書、議会会議録の答弁、首長の施政方針、過去の落札結果と前年度の成果物には、発注者の課題と動機が表れています。このページでは、それぞれの調べ方と、官公需情報ポータルサイトや調達ポータルの使いどころ、調べた結果を発注者の言葉と出典で提案書に織り込む方法を解説します。

執筆:村井宗明(元文部科学大臣政務官・AIエンジニア)公開:更新:読了目安:約10分

仕様書には「何をしてほしいか」は書かれていますが、「なぜ今それが必要なのか」「庁内でどれほど重視されているのか」は多くの場合書かれていません。その答えは、自治体が公開している計画書・予算資料・議会会議録・入札結果の中にあります。この章では、発注者である自治体を公開情報から調べる方法と、調べた結果を提案書に織り込む方法を解説します。

この章の要点

  • 4-1 計画と予算から事業の位置づけを掴む:発注される事業の多くは自治体の計画のどこかに位置づけられ、予算として議会の議決を経ています。計画と予算を読むと、事業の目的・優先度・評価される成果の方向性が分かります。
  • 4-2 「なぜ今この事業か」を知る:事業が今年度に予算化された理由は、議会での質疑・答弁、首長の施政方針、地域の報道に現れます。発注者の「動機」を知ると、提案で強調すべき点が分かります。
  • 4-3 過去の実績を調べる:同じ自治体が過去に同種の業務をどう発注し、誰が受注し、何が成果物として残ったかを調べると、仕様書の背景と競合状況、提案の水準感がつかめます。
  • 4-4 調査結果を提案に織り込む:事前調査の価値は、提案書の中で「発注者の課題を、発注者の言葉と根拠で書けること」にあります。調べた量を見せるのではなく、課題と解決策の説得力を高めるために使います。
このページの目次
  1. 4-1 計画と予算から事業の位置づけを掴む
    1. 総合計画・個別計画(DX推進計画など)の該当施策
    2. 予算書・主要施策の説明資料
    3. 国の補助金・交付金との関係
  2. 4-2 「なぜ今この事業か」を知る
    1. 議会議事録の質疑・答弁
    2. 首長の施政方針・記者会見
    3. 地域の報道・住民の声
  3. 4-3 過去の実績を調べる
    1. 過去の落札結果・契約情報
    2. 前年度の受注者と公開された成果物
    3. 他自治体の類似事業
  4. 4-4 調査結果を提案に織り込む
    1. 発注者の言葉で課題を書く
    2. 調べたことを羅列しない
    3. 出典を示して説得力を出す

4-1計画と予算から事業の位置づけを掴む

要点

発注される事業の多くは自治体の計画のどこかに位置づけられ、予算として議会の議決を経ています。計画と予算を読むと、事業の目的・優先度・評価される成果の方向性が分かります。

総合計画・個別計画(DX推進計画など)の該当施策

多くの自治体は、まちづくりの最上位計画として「総合計画」(基本構想・基本計画・実施計画)を策定しています。市町村の基本構想の策定義務(改正前の地方自治法第2条第4項)は、平成23年の地方自治法改正(平成23年法律第35号、同年8月1日施行)で削除されました。その後も各自治体の自主的な判断で策定が続けられており(基本構想を議会の議決事件として条例で定めている例もあります)、ホームページの「市政情報」「計画・方針」などの欄で公開しています。

総合計画の下には分野別の個別計画があります。IT・DX関連の業務であれば「DX推進計画」「デジタル化推進方針」「情報化計画」、観光なら「観光振興計画」、子育てなら「子ども・子育て支援事業計画」といった具合です。自治体のDX計画は、総務省の「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」(令和8年1月に第5.1版へ改定)と「自治体DX全体手順書」(第5.0版、令和8年1月)を踏まえて作られていることが多いため、国の計画とあわせて読むと、自治体がどの重点取組に沿って事業を組み立てているかが見えてきます。なお、国の推進計画は改定が重ねられており、第5.0版(令和7年12月)では、それまで令和7年度末までとしていた計画期間を設定しないこととし、重点取組事項は「共通化等の推進」を独立した項目とするなどして8項目(第4.0版では7項目)になりました。自治体の計画が国のどの版を前提に作られたかを確認しておくと、重点取組の名称のずれに戸惑わずに済みます。

探し方の手順は次のとおりです。

  1. 自治体サイト内検索、または検索エンジンで「自治体名 総合計画」「自治体名 DX推進計画」と検索する
  2. 仕様書に出てくる事業名・キーワードを計画書PDF内で検索し、該当する施策・取組を特定する
  3. その施策に設定されている目標指標(KPI)と目標値を書き写す

KPIは提案書で「効果」を書くときの最良の材料になります。発注者自身が掲げた目標値に、提案の効果を結び付けられるからです。

予算書・主要施策の説明資料

計画に載っていても、予算が付かなければ事業は動きません。次の資料で、事業の規模と重点度を確認します。

  • 当初予算の概要・予算説明資料:新規事業・拡充事業が一覧になっていることが多く、事業の目的と予算額が簡潔に書かれています
  • 予算書・予算に関する説明書:款・項・目の単位で金額が載っています
  • 決算に係る主要な施策の成果説明書:地方自治法第233条第5項に基づき、首長が決算を議会の認定に付する際に、あわせて提出する「主要な施策の成果を説明する書類」です(名称は「主要施策の成果説明書」など自治体により異なります)。前年度までに何に取り組み、どんな成果と課題があったかを担当課自身が書いています

特に成果説明書は、継続事業の「前年度の到達点」と「積み残しの課題」を知る一次資料です。提案書の「業務の理解度」の項目で、現状認識の根拠として使えます。

国の補助金・交付金との関係

自治体の事業には、国の補助金・交付金を財源にしたものが少なくありません。財源が国の交付金である場合、国への申請時に作った実施計画やKPIがあり、事業終了後に効果検証が求められます。発注者が気にしているのは「交付金の目標を達成できるか」「効果検証で説明できる成果が出るか」です。

地方創生・デジタル関連の交付金は名称が変わってきました。令和6年度までの事業は「デジタル田園都市国家構想交付金」、令和7年度の事業は「新しい地方経済・生活環境創生交付金(第2世代交付金など)」(令和6年度補正予算で創設)、令和8年度からは「地域未来交付金」(令和7年度補正予算で創設)が中心となっています。地域未来交付金には、地域未来推進型・デジタル実装型・地域防災緊急整備型・地域産業構造転換インフラ整備推進型の4つの類型があります。過去の公告や資料を読むときは、旧名称でも検索してください。交付金事業の実施計画や効果検証結果を自治体サイトで公開している例も多く、そこに書かれたKPIは提案の目標設定の有力な手がかりになります。

よくある質問

Q小さな町村で計画書が見つからない場合はどうすればよいですか。

A

町村でも総合計画は公開されていることが多いですが、見つからなければ議会の「議会だより」や広報紙、当初予算の概要を探してください。都道府県の計画に沿って事業を組み立てている場合もあるため、都道府県の個別計画も確認すると手がかりになります。

4-2「なぜ今この事業か」を知る

要点

事業が今年度に予算化された理由は、議会での質疑・答弁、首長の施政方針、地域の報道に現れます。発注者の「動機」を知ると、提案で強調すべき点が分かります。

議会議事録の質疑・答弁

議会の会議録は、発注者の本音が最も表れる公開資料です。多くの自治体は「会議録検索システム」をホームページで公開しており、キーワード・会議名・発言者で検索できます。

調べるときのコツは次のとおりです。

  • 事業名だけでなく、事業の目的に関わる言葉(「窓口」「待ち時間」「観光客数」など)でも検索する
  • 予算審議の時期(多くは2〜3月の定例会と予算特別委員会)と、決算審査の時期(多くは9月前後)を重点的に読む
  • 議員の質問だけでなく、担当部長・課長の答弁に注目する。答弁で約束した内容は、仕様書に反映されていることが多い

たとえば、議員が「窓口の待ち時間が長いという苦情がある」と質問し、部長が「来年度、待ち時間の短縮に向けた仕組みを導入する」と答弁していれば、その事業で最も評価されるのは「待ち時間の短縮」だと分かります。

会議録がまだ公開されていない直近の定例会については、議会のインターネット中継の録画が参考になります。

首長の施政方針・記者会見

首長が新年度予算を審議する議会(多くは2〜3月の定例会)の冒頭で述べる「施政方針」や、就任後の議会で述べる「所信表明」、定例記者会見の記録には、首長が重視する政策が並んでいます。首長の言葉に入っている事業は、庁内で優先度が高く、担当課も成果を強く意識しています。記者会見の資料や質疑録は、自治体サイトの「市長の部屋」などのページで公開されていることが一般的です。

地域の報道・住民の声

地方紙や地元テレビの報道、自治体が実施した市民意識調査・アンケートの結果、パブリックコメントへの意見と自治体の回答も有力な情報源です。住民の不満や要望は、事業の「本当の課題」を示します。市民意識調査の満足度・重要度の数値は、提案書で課題を示すときの客観的な根拠として使えます。

よくある質問

Q議会会議録を読むのは時間がかかりすぎませんか。

A

全文を読む必要はありません。会議録検索でキーワードがヒットした箇所の前後だけを読み、質問・答弁の要旨をメモに残せば、比較的短い時間で主要な情報は集まります。直近2〜3年分の予算審議・決算審査に絞るのが効率的です。

4-3過去の実績を調べる

要点

同じ自治体が過去に同種の業務をどう発注し、誰が受注し、何が成果物として残ったかを調べると、仕様書の背景と競合状況、提案の水準感がつかめます。

過去の落札結果・契約情報

入札結果・契約情報は次の場所で調べられます。

情報源 主な内容 補足
各自治体の「入札・契約」ページ 入札結果、プロポーザルの選定結果、随意契約の公表 公表範囲・掲載期間は自治体ごとに異なる
電子入札システム・入札情報サービス 発注見通し、公告、入札結果 都道府県と市町村が共同運営している場合がある
官公需情報ポータルサイト(中小企業庁) 国・独立行政法人・自治体がホームページに掲載した入札情報(公告)を横断検索。過去の類似案件の把握に向く 検索APIも公開されている。すべての入札情報を網羅するものではなく、落札結果は各発注機関のページで確認する
調達ポータル(デジタル庁が運営。政府電子調達(GEPS)と連携) 国の機関の調達情報、落札実績 落札実績情報のオープンデータを提供

公共工事は「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」により入札・契約情報の公表が義務付けられていますが、物品・役務(委託業務)には同法のような一律の公表義務はなく、各自治体が要綱等に基づいて公表しています。プロポーザルについては、選定結果として契約候補者名、参加者数、評価点を公表する自治体もあります。公表されていない情報は、情報公開請求で入手できる場合があります。

前年度の受注者と公開された成果物

継続事業や更新案件では、前年度の受注者が有利な立場にいます。前年度の受注者名が分かれば、その会社の得意分野と、提案で強調してくるであろう点を想定できます。

あわせて、前年度の成果物(調査報告書、計画書、システムの利用実績など)が公開されていないかを探します。報告書は自治体サイトの担当課ページや審議会の資料として公開されていることがあります。報告書の「今後の課題」の章は、今年度の仕様書に直結していることが多い重要な情報です。

他自治体の類似事業

同じ事業を先行して実施した他自治体の事例は、提案の実現性と効果の見込みを示す材料になります。官公需情報ポータルサイトで同じキーワードの案件を検索したり、総務省の「自治体DX推進参考事例集」、交付金の事例集などを見たりして、先行事例とその成果・課題を把握しておきます。

  • 悪い例: 「他の自治体でも導入が進んでおり、効果が期待できます。」
  • 良い例: 「人口規模が同程度の先行自治体では、導入初年度に窓口の平均待ち時間が短縮されたと公表されています。一方で、高齢者の利用率の低さが課題とされており、本提案では対面サポートを併設してこの課題に対応します。」

よくある質問

Q前年度の受注者がいる案件には参加しないほうがよいですか。

A

一概には言えません。成果説明書や報告書に「課題」が残っている場合、発注者は改善を求めています。その課題への具体的な解決策を示せれば、新規参入でも十分に評価されます。

4-4調査結果を提案に織り込む

要点

事前調査の価値は、提案書の中で「発注者の課題を、発注者の言葉と根拠で書けること」にあります。調べた量を見せるのではなく、課題と解決策の説得力を高めるために使います。

発注者の言葉で課題を書く

評価者の多くは担当課や関係部署の職員です。自分たちの計画書や答弁で使っている言葉が提案書に出てくると、「この会社は自分たちのことを理解している」と感じます。逆に、提案者が独自に作った言葉で課題を書くと、発注者の認識とのずれが生じやすくなります。

  • 悪い例: 「貴市ではデジタル化の遅れが深刻な課題となっています。」
  • 良い例: 「貴市DX推進計画では『行かない窓口の実現』を重点取組に掲げ、オンライン申請の利用率を令和◯年度に◯%とする目標を設定されています。本業務はこの目標達成の中核を担うものと理解しています。」

調べたことを羅列しない

調査をすると、集めた情報をすべて書きたくなります。しかし評価者は自治体の計画や議会の議論を誰よりもよく知っています。計画の内容を長々と書き写しても加点にはつながらず、ページを消費するだけです。調査結果は、次の3点に絞って使います。

  1. 課題の根拠(KPIの現状値、市民意識調査の数値、答弁での言及)
  2. 事業の目的と提案の効果の結び付け(計画の目標値への貢献)
  3. 先行事例から得た教訓(同じ失敗を繰り返さない工夫)

出典を示して説得力を出す

数値や方針を引用するときは、資料名と年度を明記します。「(出典:◯◯市DX推進計画 令和◯年度改定版 p.◯)」のように書けば、評価者は根拠を確認でき、提案全体の信頼性が上がります。出典を示すことは、提案者の主張と発注者の公式見解を区別することにもなります。

ただし、議会の会議録を引用する場合は、議員個人の発言を批判的に取り上げたり、特定の議員名を強調したりしないように注意してください。引用は「◯年◯月定例会において、本事業の目的として◯◯が答弁されています」のように、事実を中立的に書くのが基本です。

よくある質問

Q調査結果はどの章に書けばよいですか。

A

主に提案書の「業務の理解度」の項目で使い、効果を示す箇所では計画の目標値との関係を示すのに使います。実施体制や工程の項目でも、議会答弁で約束された時期や、成果説明書に残された課題に対応する形で書くと、調査結果が根拠として生きます。

検索でよくある疑問

Q自治体の過去の落札結果やプロポーザルの選定結果はどこで調べられますか?

A

落札結果や選定結果は、各自治体の「入札・契約」ページや電子入札システム・入札情報サービスで調べます。国の機関の落札実績は、デジタル庁の調達ポータルでオープンデータとして確認できます。過去の類似案件の公告を探すには、国・独立行政法人・自治体の入札情報を横断検索できる中小企業庁の官公需情報ポータルサイトが便利です。公表範囲や掲載期間は自治体ごとに異なり、公表されていない情報は情報公開請求で入手できる場合があります。

Q議会の会議録では何を調べればよいですか?

A

事業名に加え、窓口・待ち時間など事業の目的に関わる言葉で会議録検索システムを検索し、ヒットした箇所の前後を読みます。予算審議の時期(多くは2〜3月)と決算審査の時期(多くは9月前後)が重点です。議員の質問だけでなく、担当部長・課長の答弁に注目してください。答弁で約束した内容は仕様書に反映されていることが多く、評価される点の手がかりになります。

Q総合計画のKPIは提案書でどのように使えばよいですか?

A

仕様書の事業名やキーワードで計画書を検索し、該当する施策の目標指標と目標値を書き写します。提案書の「業務の理解度」で課題の根拠として示し、効果を書く箇所では提案の効果を計画の目標値への貢献として結び付けます。引用するときは資料名・年度・ページを出典として明記すると、評価者が根拠を確認でき、提案全体の信頼性が上がります。

参考資料

法令・制度の記述は、次の一次資料・公的資料で確認しています。