STEP2読む・選ぶ・調べる/第3章

入札の参加判断の基準 ― 参加判断シートで勝てるプロポーザル案件を選ぶ方法

入札の参加判断は、見つけた案件すべてに出すのではなく、提案書作成のコストを見える化したうえで「出す案件」と「見送る案件」を意識的に選ぶことです。全部に出すと1件あたりの準備時間が減り、仕様書の読み込みや発注者の調査が削られて、勝率が下がります。このページでは、提案書作成コストの試算方法、実績・体制・価格・関係性と地域性・準備期間の5つの基準で点数化する参加判断シート、入札参加資格の確認、そして仕様が特定の事業者に寄った出来レースの見極め方と、それでも参加する意味を解説します。

執筆:村井宗明(元文部科学大臣政務官・AIエンジニア)公開:更新:読了目安:約8分

見つけた案件すべてに提案すると、1件あたりの準備時間が減って提案書の品質が落ち、結果として勝率も下がります。受注への近道は、提案書作成のコストを見える化したうえで「出す案件」と「見送る案件」を意識的に選ぶことです。この章では、全部に出すと勝率が下がる理由、参加判断の5つの基準と参加判断シートの作り方、そして特定の事業者に有利な「出来レース」の見極め方を解説します。

この章の要点

  • 3-1 全部に出すと勝率が下がる理由:見つけた案件すべてに提案すると、1件あたりの準備時間が減って提案書の品質が落ち、結果として勝率も下がります。提案書作成にかかるコストを金額で見える化し、「出す案件」と「見送る案件」を意識的に選ぶことが受注への近道です。
  • 3-2 参加判断の5つの基準:参加するかどうかは「実績」「体制」「価格」「関係性・地域性」「準備期間」の5つの基準で判断します。参加判断シートで点数化すると、担当者の思い込みではなく社内で共有できる根拠で判断できます。
  • 3-3 出来レースを見極める:仕様が特定の製品や事業者に寄っている、公告から提出までが極端に短いといったサインがある案件は、新規参入の勝率が低い可能性があります。ただし、見かけだけで不正と決めつけず、参加する意味があるかどうかを冷静に判断します。
このページの目次
  1. 3-1 全部に出すと勝率が下がる理由
    1. 準備時間の分散と品質低下
    2. 提案書作成コストを見える化する
  2. 3-2 参加判断の5つの基準
    1. 実績:類似業務・同規模の経験
    2. 体制:配置予定者を確保できるか
    3. 価格:上限額と原価の関係
    4. 関係性・地域性
    5. 準備期間
    6. 参加判断シート(点数化)の作り方
  3. 3-3 出来レースを見極める
    1. 仕様が特定の製品・事業者に寄っているサイン
    2. 公告から提出までが極端に短い
    3. それでも出す意味:実績づくり・次年度・認知

3-1全部に出すと勝率が下がる理由

要点

見つけた案件すべてに提案すると、1件あたりの準備時間が減って提案書の品質が落ち、結果として勝率も下がります。提案書作成にかかるコストを金額で見える化し、「出す案件」と「見送る案件」を意識的に選ぶことが受注への近道です。

準備時間の分散と品質低下

公募型プロポーザルの公告から提案書提出までの期間は、数週間から1か月程度の例が多く見られます。自治体のマニュアルやガイドラインには、公募開始から提案書の提出期限までを「原則として1か月以上」「1か月程度」確保するよう定める例があり、質問締切までは「最低5営業日」、参加表明書の受付までは「10日程度」を目安とする例もあります。その期間内に質問・回答の確認や社内調整も済ませる必要があるため、提案書作成に使える時間は決して長くありません。

この限られた期間に複数の案件を並行すると、仕様書の読み込み、発注者の事前調査、骨子のレビューといった「点につながる工程」が真っ先に削られます。その結果、どの案件でも仕様書をなぞっただけの提案書になり、すべて次点以下で終わるという事態が起こります。

  • 悪い例: 同じ月に5件のプロポーザルへ参加し、どの提案書も前回の提案書を流用して2〜3日で仕上げる。結果は5件とも落選。
  • 良い例: 同じ月の候補5件を参加判断シートで評価し、勝てる見込みの高い2件に絞る。残りの時間で発注者の計画や過去の成果物を調べ、評価項目ごとに具体策を書き込む。

提案書作成コストを見える化する

提案書作成は「無料の営業活動」ではありません。社内の人件費を金額にすると、参加判断の重みが変わります。

架空の試算例(中規模のIT系プロポーザル1件)

作業 担当 時間 単価(時給換算) 金額
公告資料の読込・要件一覧表作成 営業 8時間 4,000円 32,000円
発注者調査・骨子作成 企画 16時間 5,000円 80,000円
本文執筆・図表作成 企画・技術 40時間 5,000円 200,000円
見積作成・社内レビュー 管理職 8時間 6,000円 48,000円
プレゼンテーション準備・リハーサル 3名 延べ12時間 5,000円 60,000円
合計 84時間 約42万円

1件あたり約42万円のコストで勝率が20%なら、1件受注するのに平均で約210万円分の労力を使っている計算になります。この数字を、受注した場合の粗利と比べることで、参加すべき案件の規模感が見えてきます。

よくある質問

Q実績づくりのために、とにかく数多く出すべきではありませんか。

A

経験を積む目的で出すこと自体は意味があります。ただし、その場合も「実績づくり枠」として件数を決め、本命の案件の準備時間を削らないように管理してください。

3-2参加判断の5つの基準

要点

参加するかどうかは「実績」「体制」「価格」「関係性・地域性」「準備期間」の5つの基準で判断します。参加判断シートで点数化すると、担当者の思い込みではなく社内で共有できる根拠で判断できます。

実績:類似業務・同規模の経験

評価基準に「類似業務実績」が含まれる案件は多く、参加資格として一定期間内の類似実績を求める案件もあります。自社の実績が、業務の分野・規模・発注者の種別(市区町村・都道府県・国)のどれと重なるかを確認します。実績が参加資格で必須とされている場合、満たしていなければ参加できません。

体制:配置予定者を確保できるか

仕様書や評価基準で、管理責任者の資格・経験年数や常駐の有無が求められることがあります。提案時点で名前を挙げた配置予定者は、受注後に原則として変更しにくいため、受注した場合に本当にその人を充てられるかまで確認します。

価格:上限額と原価の関係

公募型プロポーザルでは、募集要項に提案上限額が示されるのが一般的で、上限額を超える価格提案は失格とする例が多く見られます。自社の想定原価を積み上げ、上限額の範囲内で必要な利益が確保できるかを確認します。上限額ぎりぎりでしか実現できない案件や、価格点の比率が高く値下げ競争になりやすい案件は慎重に判断します。

関係性・地域性

地域内の事業者であることを参加資格や加点項目にしている案件もあります。また、発注者の業務や地域の事情を理解していることは、業務の理解度の評価で有利に働きます。過去の取引、同じ地域での実績、現地対応のしやすさを確認します。

準備期間

提出期限までの日数と、社内の繁忙状況を照らし合わせます。あわせて入札参加資格の登録状況も確認します。自治体の案件では、その自治体の競争入札参加資格者名簿への登録を参加資格とする例が多く、国の案件では全省庁統一資格(有効期間3年、調達ポータルで申請)が求められるのが一般的です。登録に時間がかかる場合、案件を見つけてからでは間に合わないことがあります。

参加判断シート(点数化)の作り方

5つの基準をそれぞれ5段階で採点し、重み付けして合計します。「必須条件」は点数とは別に、満たさなければ即見送りとします。

架空の記入例(図書館利用者アンケート調査・分析業務)

基準 重み 評価(1〜5) 根拠 得点
【必須】参加資格(名簿登録・所在地要件) ― 充足 業務委託区分で登録済 ―
実績 ×3 4 他市の類似調査3件(同規模) 12
体制 ×3 3 管理責任者は確保、分析担当が繁忙 9
価格 ×2 4 上限額に対し原価率約70% 8
関係性・地域性 ×1 2 当該市での取引なし 2
準備期間 ×1 3 提出まで18日、他案件と一部重複 3
合計 50点満点 34点

判断の目安(架空の社内基準):35点以上は参加、25〜34点は条件付き参加(弱点の補強策を決めてから着手)、24点以下は見送り。この例では「分析担当の外部協力者を確保できれば参加」と条件を付けて判断します。

よくある質問

Q重みはどのように決めればよいですか。

A

自社が過去に勝った案件と負けた案件を振り返り、勝敗を分けた要素に大きな重みを付けるのが現実的です。最初は仮の重みで運用し、結果を見ながら半年から1年ごとに見直してください。

3-3出来レースを見極める

要点

仕様が特定の製品や事業者に寄っている、公告から提出までが極端に短いといったサインがある案件は、新規参入の勝率が低い可能性があります。ただし、見かけだけで不正と決めつけず、参加する意味があるかどうかを冷静に判断します。

仕様が特定の製品・事業者に寄っているサイン

公正取引委員会は、「官公庁における情報システム調達に関する実態調査報告書」(令和4年2月)で、ベンダーが発注担当者に不正確な情報を提供するなどして自社のみが対応できる機能を仕様書に盛り込ませ、他の事業者の入札参加を困難にすることは、独占禁止法上問題となるおそれがあると指摘しています。また、入札談合等関与行為防止法(官製談合防止法)は、発注機関の職員が特定の者を契約の相手方として希望する意向を示すことや、秘密情報を漏らすことなどを禁止しています。

公告資料から読み取れるサインには、次のようなものがあります。

サイン 具体例(架空)
特定製品の固有機能が必須要件 特定の製品名や、その製品にしかない機能名・画面名が仕様書に並ぶ
実績要件が狭すぎる 「過去3年以内に人口5万人以上8万人未満の市で同一システムを導入した実績」など
既存環境の情報が開示されていない データ形式や現行システムの仕様が非公開で、既存事業者以外は見積が困難
質問への回答が不十分 既存環境に関する質問に「受注者決定後に提示」とだけ回答される

これらは、発注者が意図せず既存事業者に有利な仕様を作っている場合も含まれます。不正の有無を参加者側で判断することは難しいため、ここでは「勝率を見積もるための材料」として扱います。

公告から提出までが極端に短い

自治体のプロポーザル事務マニュアルでは、より多くの事業者が参加できるよう、公募期間を十分に確保することが望ましいとする例が多く見られます(公募開始から提案書の提出期限まで原則として1か月以上の確保に努めるとする例など)。業務の規模に比べて公告から提出までが極端に短い場合、事前に情報を得ていた事業者だけが準備を間に合わせられる状況になっている可能性があります。

それでも出す意味:実績づくり・次年度・認知

勝率が低いと判断した案件でも、出す意味がある場合があります。

  • 実績づくり: 提案書の作成やプレゼンの経験を積み、社内の提案書資産(体制図・品質管理の記述など)を増やせる。
  • 次年度への布石: 落選しても講評や評価点を入手できれば、次年度の同種案件で改善できる。
  • 発注者への認知: 提案内容が評価されれば、発注者に「選択肢となる事業者」として認識される。

このような目的で参加する場合は、かける工数の上限をあらかじめ決めておきます。

  • 悪い例: 特定事業者向けに見える仕様に気づかないまま、全力で提案書を作り、大きなコストをかけて落選する。
  • 良い例: サインを確認したうえで「次年度の参入準備」と位置づけ、作成工数の上限を決めて参加する。質問書で既存環境の開示を求め、回答の内容も次年度の判断材料として記録する。

よくある質問

Q明らかに特定の事業者向けと思われる仕様を見つけたら、どうすればよいですか。

A

まずは質問書で、特定製品と同等の機能を持つ他製品でもよいか、既存環境の情報を開示できるかを正式に確認するのが穏当です。それでも公正性に疑問がある場合は、発注機関の契約担当課や、公正取引委員会の「入札談合等関与行為防止法についての窓口一覧」に掲載された相談窓口に相談する方法もあります。

検索でよくある疑問

Q入札やプロポーザルに参加するかどうかは何で判断すればよいですか?

A

「実績」「体制」「価格」「関係性・地域性」「準備期間」の5つの基準で判断します。それぞれを5段階で採点して重み付けし、合計点で参加・条件付き参加・見送りを決めると、担当者の思い込みではなく社内で共有できる根拠になります。参加資格(名簿登録・所在地要件など)は点数とは別の必須条件として扱い、満たさなければ即見送りとします。

Q提案書の作成コストはどのくらいかかりますか?

A

案件の規模や体制で変わりますが、社内の人件費を金額にして見える化することが大切です。中規模のIT系プロポーザル1件を想定した架空の試算例では、要件一覧表の作成、発注者調査と骨子、本文執筆、見積とレビュー、プレゼン準備で合計84時間、約42万円になります。勝率20%なら1件の受注に約210万円分の労力を使う計算です。

Q出来レースの可能性がある入札案件にはどんな特徴がありますか?

A

特定の製品名や固有の機能名が必須要件に並ぶ、実績要件が狭すぎる、既存環境の情報が開示されていない、既存環境に関する質問に「受注者決定後に提示」とだけ回答される、公告から提出までが極端に短い、といったサインがあります。発注者が意図せず既存事業者に有利な仕様を作っている場合もあるため、不正と決めつけず、勝率を見積もる材料として扱います。

参考資料

法令・制度の記述は、次の一次資料・公的資料で確認しています。