第7章冬:財政課査定と首長査定

予算査定とは?財政課ヒアリング・首長査定・復活要求の実際

予算査定と財政課ヒアリングの実際をわかりやすく解説。ヒアリングでよく聞かれる質問と準備資料、査定の6つの視点、12月の地方財政対策で歳入が固まる仕組み、財政課長査定・部長査定・首長査定、復活要求と財政調整基金の取り崩しがわかります。

時期:11月下旬〜翌1月財政課事業課部長首長副首長

この章の要点

  • 7-1財政課ヒアリングでは、目的・執行率・積算根拠・財源・後年度負担が問われ、1枚の説明資料と速やかな追加回答が結果を左右します。
  • 7-2財政課の査定担当は、要求を点検して査定案(査定額と査定理由)を作り、財源不足額を毎日計算し直します。
  • 7-3査定は、必要性・緊急性・効果・財源・後年度負担・公平性の6つの視点で行われます。
  • 7-412月下旬の国の予算政府案と地方財政対策で歳入が固まります(令和8年度は一般財源総額67.5兆円、地方交付税20.2兆円)。
  • 7-51月の部長査定・首長査定で目玉事業と予算全体の収支が決まり、2月上旬の内示に進みます。
  • 7-6復活要求は新たな根拠や組み替えがある場合に限られ、最後の財源不足は財政調整基金の取り崩しで埋める自治体が多く見られます。
  • 7-7年末年始の財政課が忙しいのは、国待ちの歳入と首長待ちの歳出、地方自治法第211条の提出期限が重なるためです。

7-1財政課ヒアリングの実際 ― よく聞かれる質問と準備資料#

Q財政課ヒアリングでは何を聞かれますか?

財政課ヒアリングとは、予算要求を受けた財政課の査定担当者が、事業課から要求内容の説明を聞き、疑問点を確認する場です。多くの自治体では、11月中旬の要求締切の後、11月下旬から12月中旬にかけて集中的に行われます。

時期や形式は自治体により異なります。例えば、滋賀県日野町の「令和8年度(2026年度)予算編成方針」では、財務会計システムの入力期限を令和7年11月7日、財政担当ヒアリングを同年11月11日から21日までと定めています。この記事の架空の自治体であるみらい市の設定では、11月下旬〜12月中旬に、各課の課長・担当者と財政課の査定担当(主査・主任)が1課あたり30分〜2時間程度向き合います。新規事業や大型事業が多い課は、複数回に分けることもあります。

ヒアリングでよく聞かれる質問は、おおむね次のとおりです。

  • この事業の目的は何か。やめたら誰がどう困るのか
  • 前年度の執行率(予算額に対して実際に使った額の割合)はどうか。執行残や流用があった理由は何か
  • 単価と数量の根拠は何か。見積書は何社から取ったか
  • 国や県の補助金は使えないか。補助率や補助対象経費は確認したか
  • 成果指標の実績はどうか。事務事業評価の結果を反映しているか
  • 翌年度以降、毎年いくらかかるのか。事業の終わり(終期)はいつか
  • 他の自治体や民間で同じことをしていないか。他の課の事業と重複していないか

準備しておきたい資料は次のとおりです。

  • 予算要求書と積算内訳、参考見積書
  • 前年度と前々年度の決算額・執行率の推移
  • 補助金交付要綱、事務事業評価シート
  • 新規事業であれば、他自治体の比較資料と後年度負担の試算表

財政課の担当者は、1人で数十課・数百事業を受け持つこともあります。質問を先回りして1枚にまとめた説明資料を用意すると、ヒアリングが短く、かつ的確になります。答えられなかった質問は持ち帰って速やかに回答することが、査定結果を左右します。

7-2財政課職員の仕事 ― 要求を数字と理屈で絞り込む#

Q財政課の査定担当は何をしているのですか?

財政課の査定担当者の仕事は、全庁から集まった予算要求を、歳入見込みの範囲に収まるよう数字と理屈で絞り込むことです。要求を削ること自体が目的ではなく、限られた財源を最も効果の高い事業に配分することが役割です。

多くの自治体では、査定担当者が部局や費目ごとに担当を分けて受け持ちます(「費目担当」「部局担当」などと呼ばれます)。担当者の作業は次のとおりです。

  1. 要求書と添付資料を読み込み、積算の誤りや過大な単価を点検する
  2. ヒアリングで確認した内容をもとに「査定案」を作る
  3. 査定案に、認める金額(査定額)と減額した理由(査定理由)を事業ごとに記録する
  4. 市税や地方交付税などの歳入見込みを集計し、歳出要求総額との差(財源不足額)を毎日のように計算し直す

この記事の架空の自治体であるみらい市の設定では、財政課は課長以下9人で、うち査定担当の主査・主任5人がそれぞれ2〜3部を担当します。要求が出そろった11月中旬の時点では、歳出要求が歳入見込みを15億円程度上回る年もあります。査定担当者は、12月中旬までにこの差を、財政調整基金の取り崩し計画(毎年5〜8億円)で埋められる水準まで縮める必要があります。

査定担当者は、事業課から見ると「削る人」です。しかし首長査定の場では、事業課に代わって事業の内容を説明する立場にもなります。そのため、良い査定担当者ほど事業課の言い分をよく聞き、通すべき事業の理屈を一緒に整えます。

7-3査定の6つの視点 ― 必要性・緊急性・効果・財源・後年度負担・公平性#

Q査定では何が判断基準になりますか?

査定の視点とは、財政課が予算要求を判断するときの共通の物差しです。査定は担当者の好みではなく、いくつかの共通した視点で行われます。この記事では、各地の予算編成方針に示された考え方を、必要性・緊急性・効果・財源・後年度負担・公平性の6つに整理します。

  1. 必要性:法令で義務付けられた事業か、自治体独自の事業か。行政が担うべきか、民間や地域に任せられるか
  2. 緊急性:来年度に実施しないと住民の安全や法令順守に支障が出るか。1年遅らせても大きな問題がないか
  3. 効果:成果指標の実績、事務事業評価の結果、費用に見合う効果(費用対効果)があるか
  4. 財源:国・県の補助金、交付税措置のある地方債、使用料、ふるさと納税を財源とする基金など、一般財源以外の財源を最大限活用しているか
  5. 後年度負担:施設の維持管理費、債務負担行為、地方債の元利償還など、翌年度以降の負担が将来の財政を圧迫しないか
  6. 公平性:特定の団体や地域だけが有利になっていないか。利用者が負担すべき費用(受益者負担)を適切に求めているか。類似事業との均衡がとれているか

財源の視点について補足します。交付税措置のある地方債とは、元利償還金の一部が地方交付税の基準財政需要額に算入される地方債です。公表されている予算編成方針の多くは、国・県の補助金が廃止・縮小された事業を安易に一般財源に振り替えないよう求めています。例えば、滋賀県日野町の「令和8年度(2026年度)予算編成方針」は、特定財源が見込めなくなった事業は「安易に一般財源に振り替えず、町にあっても制度そのものを見直す」としています。

この記事の架空の自治体であるみらい市の設定では、経常収支比率が約93%と高く、自由に使える財源が限られるため、とくに後年度負担の視点が重視されます。初年度は少額でも毎年の運営費が積み上がる事業は、終期の設定や既存事業の廃止とセットでなければ認められにくいのが実情です。

7-412月下旬 ― 国の予算案と地方財政対策で歳入が固まる#

Qなぜ年末に歳入の見通しが変わるのですか?

12月下旬は、国の予算政府案と地方財政対策が決まり、自治体の歳入の見通しが大きく固まる時期です。地方交付税や国庫補助金の規模は国の予算で決まるため、それまで財政課は仮の数字で査定を進めています。

国の動きの流れは次のとおりです。

  1. 8月下旬:各省庁が翌年度予算の概算要求を財務省に提出する。総務省は「翌年度の地方財政の課題」と「地方財政収支の仮試算」を示す
  2. 12月下旬:総務大臣と財務大臣の折衝を経て地方財政対策(地方交付税の総額と地方の一般財源総額の確保策)がまとまり、国の予算政府案が閣議決定される
  3. 例年2月:地方財政計画(地方団体の歳入歳出総額の見込額)が閣議決定され、国会に提出される

令和8年度(2026年度)の例を挙げます。総務省「令和8年度の地方財政の課題(案)」(令和7年8月)の仮試算では、水準超経費を除く交付団体ベースの一般財源総額は65.1兆円(前年度比1.3兆円増)、地方交付税は19.3兆円でした。令和7年12月26日の予算政府案の閣議決定と同日に公表された総務省「令和8年度地方財政対策のポイント」では、物価高への対応や教育無償化の地方負担分などが上乗せされました。その結果、一般財源総額(交付団体ベース)は67.5兆円(前年度比3.7兆円増)、地方交付税は20.2兆円(同1.2兆円増)になりました。臨時財政対策債(臨財債:地方交付税の不足分を自治体の借入れで補う地方債)の新規発行は、引き続きゼロです。地方財政計画は令和8年2月20日に閣議決定され、通常収支分の規模は102.4兆円でした。

このように、夏の仮試算と年末の地方財政対策では数字が大きく変わることがあります。財政課は地方財政対策を受けて、地方交付税や各種交付金の見込みを修正し、国の補助事業の採否や補助単価の変更も反映させます。山口県下関市の「令和8年度予算編成要領」は、地方財政計画の状況などにより一般財源の見通しが変わった場合、部局への配分額を再調整・再配分する可能性があるとあらかじめ明記しています。

7-51月 ― 部長査定・首長査定と目玉事業の決定#

Q首長査定では何が決まりますか?

首長査定とは、財政課長査定と部長査定の結果を踏まえ、首長が予算案の最終的な姿を決める査定です。1月に行われることが多く、財政課の事務的な査定では判断しきれない政策的な判断と、首長の「目玉事業」がここで決まります。

査定の段階の名称や数は自治体によって異なります。この記事の架空の自治体であるみらい市の設定では、12月下旬〜1月上旬の財政課長査定、1月中旬の総務部長(財政課を所管する部長)による部長査定、1月下旬の市長査定の3段階です。部長査定では、財政課長査定で保留とされた事業や、各部長からの復活要求を中心に協議します。市長査定には副市長、総務部長、財政課長が同席し、事業を所管する部長が直接説明する場面もあります。小規模な町村では段階が少なく、例えば滋賀県日野町の「令和8年度(2026年度)予算編成方針」では、町長査定を令和7年12月24日から令和8年1月15日までの間に行う予定としています。

首長査定で主に決まるのは、次の事項です。

  • 新規事業・拡充事業のうち、どれを採択するか(予算の目玉事業の決定)
  • 首長の公約や総合計画の重点施策をどの程度予算に反映するか
  • 職員の増員、使用料の改定、施設の統廃合など、政策的な判断を要する事項
  • 財政調整基金の取り崩し額や地方債の発行額など、予算全体の収支の最終調整

予算編成の過程を公表する自治体もあります。鳥取県は「予算編成過程の公開」として、各部局からの要求事業の内容と査定状況を、要求段階から知事査定結果まで段階ごとに部局別・事業別にホームページで公開しています。大阪市は、12月1日時点の要求段階の予算事業一覧を令和7年12月18日に公表しました。

首長査定が終わると、2月上旬の内示(査定結果の各課への通知)、予算書の印刷、2月中旬の記者発表へと進みます。首長査定で決まった目玉事業は、施政方針や予算の記者発表で中心的に打ち出されます。

7-6復活要求と財源不足の穴埋め ― 基金取り崩しの現実#

Q査定で削られた予算は復活できますか?

復活要求とは、財政課の査定で削減または不採択とされた事業について、事業課や部が再度予算化を求めることです。多くの自治体では、財政課長査定の後の部長査定や首長査定の場で復活要求の機会が設けられますが、認められる件数は限られます。

復活要求が認められやすいのは、次の場合です。

  • ヒアリングの段階では示せなかった新しい根拠(国の補助採択の内示、法令改正の確定、事故や災害による緊急性など)が出てきた
  • 部内の他の事業を削って財源を生み出す「組み替え」を伴う

逆に、同じ説明の繰り返しでは通る可能性は低いといえます。山口県下関市の「令和8年度(2026年度)予算編成要領」は、通常の経費区分で要求できない経費を「要求基準外経費」として要求を認める一方、この区分で要求した項目は再度の復活要求が認められず、財政部査定以降の変更は部局裁量経費の組み替えで対応すると定めています。

財政課は、査定と並行して、最後まで埋まらない財源不足をどう穴埋めするかを考えます。主な手段は次の4つです。

  • 財政調整基金(年度間の財源の調整に使う貯金)の取り崩し
  • 特定目的基金の活用
  • 交付税措置のある地方債(元利償還金の一部が基準財政需要額に算入される地方債)の活用
  • 歳入見込みの精査(市税の見込みの見直しなど)

この記事の架空の自治体であるみらい市の設定では、財政調整基金の残高は約25億円で、予算編成では毎年5〜8億円の取り崩しを計画しています。この記事の試算では、毎年7億円を取り崩し、決算で同程度を積み戻せなければ、3〜4年で残高は底をつく計算です。実際には、年度途中の不用額(使い残し)や税収の上振れで決算時に一部を積み戻す例が多く見られます。それでも、「当初予算は基金を取り崩さないと組めない」状態が続くこと自体が、財政の硬直化を示すサインです。復活要求の可否は、この基金残高との兼ね合いで判断されているのが現実です。

7-7年末年始の財政課の働き方#

Q財政課はなぜ年末年始に忙しいのですか?

年末年始の財政課は、12月から1月にかけて1年で最も忙しい時期を迎えます。ヒアリング、査定案の作成、国の予算案と地方財政対策への対応、12月定例会の補正予算、年明けの部長査定・首長査定の準備が、すべてこの時期に重なるためです。

この記事の架空の自治体であるみらい市の設定で、財政課の年末年始の動きを追います。

  • 11月下旬〜12月中旬:日中は財政課ヒアリング、夕方以降は査定案の作成と数字の集計。同じ時期に12月定例会があり、補正予算の審議への対応も必要
  • 12月下旬:国の予算政府案と地方財政対策が公表され、地方交付税などの歳入見込みを一斉に見直す
  • 年末年始の休暇の前後:財政課長査定
  • 1月中旬・1月下旬:部長査定、市長査定に向けて査定資料を何度も作り直す

この時期に負担が集中する理由は、作業の順序を入れ替えられない点にあります。歳入は国の動きを待たなければ固まらず、歳出は首長の判断を待たなければ確定しません。さらに、首長は予算を年度開始前に議会の議決を経なければならず、都道府県と指定都市は年度開始前30日、その他の市町村は年度開始前20日までに予算を議会に提出するようにしなければなりません(地方自治法第211条第1項)。印刷や議案作成の日程から逆算すると、1月末には予算案を固める必要があります。

一方で、近年は働き方の見直しも進んでいます。多くの自治体で次のような工夫が、財政課の長時間労働を減らすために取り入れられています。

  • 財務会計システムでの要求・査定のデータ管理
  • 紙の資料を減らしたペーパーレス査定
  • ヒアリングの事前質問票による時間短縮
  • 査定理由を記録して翌年度に引き継ぐ仕組み

参考資料・出典

法令はe-Gov法令検索の現行条文、統計は総務省等の公表資料(基準時点は本文に記載)によります。

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