第3章お金はどこへ行くのか ― 歳出の実態
経常収支比率とは?自治体の歳出・義務的経費・財政指標の見方
経常収支比率・実質公債費比率・将来負担比率の見方と自治体の歳出をわかりやすく解説。目的別・性質別分類、扶助費・人件費・公債費の義務的経費、インフラ老朽化と投資的経費、新規事業に使えるお金が数%しかない理由がわかります。
この章の要点
- 3-1歳出は目的別分類(民生費・教育費など)と性質別分類(扶助費・人件費など)の2つの切り口で見ます。令和7年度(2025年度)市町村決算(速報)では民生費が38.8%、扶助費が25.6%で、民生費の一部が扶助費です。
- 3-2義務的経費(人件費・扶助費・公債費)は令和7年度市町村決算(速報)で歳出の48.8%を占め、法令や契約で支出が決まっているため自治体の判断では減らせません。
- 3-3投資的経費の中心は新規整備から既存施設の更新整備に移っており、公共施設等総合管理計画に基づき、地方債・国庫補助金・特定目的基金を組み合わせて長期的に財源を確保します。
- 3-4経常収支比率(市町村平均93.3%、令和7年度速報)は財政のゆとりを、健全化判断比率(4指標)は危険水域への接近を示し、健全化判断比率が低くても経常収支比率が高ければ予算の自由度は小さいです。
- 3-5新規事業に自由に使える経常一般財源は予算全体の数%にとどまるため、特定財源の確保やスクラップ・アンド・ビルドなど財源の裏付けが新規要求には求められます。
3-1目的別分類と性質別分類 ― 歳出を2つの切り口で見る#
Q民生費と扶助費はどう違うのか?
目的別分類と性質別分類とは、自治体の歳出(支出)を整理する2つの切り口です。目的別分類は「何の行政目的に使ったか」で分け、性質別分類は「どんな性質のお金として使ったか」で分けます。民生費は目的別の区分、扶助費は性質別の区分で、同じお金を別の角度から見た名前です。
目的別分類は、予算書の「款」(予算の最も大きな区分)とほぼ対応します。主な区分は次のとおりです。
- 総務費(庁舎管理、税務、戸籍、情報システムなど)
- 民生費(児童福祉、高齢者福祉、障害者福祉、生活保護など)
- 衛生費(保健、ごみ処理など)
- 農林水産業費、商工費、土木費(道路・公園など)、消防費
- 教育費(学校、社会教育など)
- 公債費(過去に借りた地方債の返済)
総務省「令和7年度(2025年度)市町村普通会計決算の概要(速報)」(令和8年9月29日公表)によると、令和7年度の市町村の歳出総額は約72.1兆円でした。目的別の構成比は、民生費38.8%が最も大きく、教育費13.4%、総務費13.2%、土木費9.4%、衛生費8.2%、公債費7.6%と続きます(いずれも速報値)。
性質別分類は、経費の経済的な性質に着目した区分です。人件費、扶助費、公債費、普通建設事業費、物件費(委託料・消耗品費など)、補助費等、繰出金(特別会計への支出)、積立金などに分けます。同じ速報によると、令和7年度の市町村の歳出に占める割合は、扶助費25.6%、人件費15.6%、物件費14.7%、普通建設事業費12.1%、補助費等9.8%、公債費7.6%でした。
2つの分類の関係は、民生費を例にすると分かりやすくなります。民生費には、生活保護費や児童手当のような住民への給付(性質別では扶助費)のほか、保育所職員の給与(人件費)、介護保険や国民健康保険の特別会計への繰出金、福祉施設の建設費(普通建設事業費)も含まれます。総務省「令和8年版地方財政白書」(令和6年度(2024年度)決算、令和8年3月)によると、都道府県と市町村を合わせた民生費のうち、扶助費は55.3%、繰出金は17.5%を占めています。つまり「民生費=扶助費」ではなく、扶助費は民生費の中心ではあるものの一部です。
予算編成の実務では、目的別の視点で「どの分野にお金を配分するか」を考え、性質別の視点で「削りにくいお金がどれだけあるか」を確認します。この記事の架空の自治体であるみらい市(人口約5万人、一般会計当初予算約230億円)の設定でも、財政課は予算案を両方の分類で集計し、議会や住民向けの説明資料に両方のグラフを載せています。多くの自治体で、同じ2種類の集計表が予算書の付属資料や広報紙に載っています。
3-2義務的経費 ― 人件費・扶助費・公債費が予算を圧迫する構造#
Q義務的経費とは何か? なぜ増えるのか?
義務的経費とは、人件費・扶助費・公債費の3つを合わせた呼び名で、法令や契約によって支出が義務付けられ、自治体の判断で簡単に減らせない経費です。義務的経費の割合が高いほど、予算の自由度は小さくなります。
総務省「令和7年度(2025年度)市町村普通会計決算の概要(速報)」(令和8年9月29日公表)によると、令和7年度の市町村の義務的経費は約35.1兆円で、歳出総額の48.8%を占めました。歳出のほぼ半分が、あらかじめ支出の決まっているお金です。
人件費は、職員の給与、退職手当、議員報酬などです。給与改定は人事院勧告や人事委員会勧告を踏まえて行われ、自治体の判断だけで据え置くことは難しい経費です。近年は、民間の賃上げを反映した給与改定や、定年の段階的引上げに伴う退職手当の変動が人件費を押し上げています。同じ速報によると、令和7年度の市町村の人件費は約11.3兆円で、給与改定による職員給の増加などにより前年度比3.5%増でした。
扶助費は、生活保護費、児童手当、障害者の自立支援給付、保育所などの施設型給付のように、社会保障制度に基づいて住民に給付する経費です。法律で給付の要件と額が決まっているため、対象者が増えれば自動的に増えます。同じ速報によると、令和7年度の市町村の扶助費は約18.4兆円で、児童手当制度の拡充や物価高対応の子育て世帯向け手当の支給などにより前年度比3.0%増でした。高齢化の進展と子育て支援策の拡充を背景に、扶助費は長期的に増加傾向が続いています。
公債費は、過去に借りた地方債の元金と利子の返済額です。返済計画は借入時に決まるため、当年度の判断では減らせません。同じ速報によると、令和7年度の市町村の公債費は約5.5兆円で、そのうち約1.7兆円は臨時財政対策債(臨財債。地方交付税の不足分を補うために自治体が発行してきた地方債)の元利償還です。近年は低金利で利子負担が抑えられてきましたが、金利の上昇局面では新たな借入れの利子負担が増える点に注意が必要です。
扶助費の多くには国庫負担金などの特定財源が伴いますが、残りの地方負担分は一般財源で賄う必要があります。この記事の架空の自治体であるみらい市の設定では、人件費約38億円、扶助費約60億円、公債費約19億円の合計約117億円が義務的経費で、一般会計当初予算約230億円のほぼ半分を占めます。この「約半分」という割合は、全国の市町村の平均(48.8%)とほぼ同じ水準です。
3-3投資的経費とインフラ老朽化 ― 公共施設等総合管理計画#
Q道路や学校の建て替え費用はどう確保するのか?
投資的経費とは、道路・橋・学校・公民館などの施設を建設・改修するための経費で、普通建設事業費と災害復旧事業費などからなります。多くの自治体で最大の課題になっているのは、新しく造ることより、高度経済成長期以降に集中して整備した施設の老朽化への対応です。
総務省「令和7年度(2025年度)市町村普通会計決算の概要(速報)」(令和8年9月29日公表)によると、令和7年度の市町村の投資的経費は約9.0兆円で、歳出総額の12.5%でした。そのうち普通建設事業費は約8.7兆円で、学校の新設・改修や消防施設の更新などにより前年度比7.9%増えています。同じ速報では、普通建設事業費のうち既存施設の更新整備が約5.4兆円、新規整備が約2.0兆円とされています。投資の中心は、すでに「造る」から「直す・建て替える」に移っています。
施設の老朽化に計画的に対応するため、総務省は平成26年(2014年)4月、すべての地方公共団体に「公共施設等総合管理計画」の策定を要請しました(平成26年4月22日付総務大臣通知、技術的助言)。公共施設等総合管理計画は、自治体が保有するすべての公共施設とインフラについて、現状と将来の更新費用の見通しを把握し、長寿命化・統廃合・複合化などの管理方針を定める計画です。総務省はさらに、個別施設ごとの長寿命化計画(個別施設計画)の内容を反映して、令和3年度(2021年度)中に公共施設等総合管理計画を見直すことも要請しました。
建て替えの財源は、主に次の3つの組み合わせです。
- 地方債:公共施設の集約化・複合化や長寿命化を対象に、元利償還金の一部が普通交付税で措置される「公共施設等適正管理推進事業債」などを多くの自治体が活用しています。
- 国庫補助金:学校施設や道路など、分野ごとの補助制度を使います。
- 特定目的基金:公共施設整備基金など、施設更新のために計画的に積み立てた基金を取り崩します。
予算編成の現場では、施設の更新需要が毎年の予算枠を大きく上回ることが珍しくありません。この記事の架空の自治体であるみらい市の設定では、公共施設等総合管理計画で今後40年間の更新費用を推計したところ、現在の投資的経費(年約25億円)を大きく上回る更新需要が見込まれました。そこでみらい市は、施設の総量を減らす方針と、公共施設整備基金への計画的な積立てを中期財政計画に盛り込んでいます。このような規模の自治体では、道路や学校の建て替えを単年度の予算要求ではなく、長期計画と基金・地方債の組み合わせで確保する例が多く見られます。地方債の対象や交付税措置の条件は年度ごとに変わるため、実際の活用は所属自治体の財政課と総務省の最新資料で確認してください。
3-4財政指標で見る自治体の体力 ― 経常収支比率・実質公債費比率・将来負担比率#
Q経常収支比率が高いと何が問題か?
財政指標とは、自治体の財政の体力を数値で示すもので、主に経常収支比率と、地方公共団体の財政の健全化に関する法律(財政健全化法)に基づく健全化判断比率が使われます。経常収支比率は財政の「ゆとり」を、健全化判断比率は「危険水域に近づいていないか」を示す指標です。
経常収支比率は、人件費・扶助費・公債費など毎年度経常的に支出する経費に充てた一般財源が、地方税や普通交付税など毎年度経常的に入る一般財源(経常一般財源)に占める割合です。比率が高いほど、決まった支出で収入が埋まり、新しい政策や臨時の支出に回せるお金が少ない「財政の硬直化」した状態を意味します。総務省「令和7年度(2025年度)市町村普通会計決算の概要(速報)」(令和8年9月29日公表)によると、令和7年度の市町村(特別区を除く)の経常収支比率は加重平均で93.3%で、前年度より0.5ポイント低下しました。90%以上の団体が全体の約6割を占めています。かつては70〜80%程度が望ましいと言われましたが、現在は90%を超えるのが一般的です。経常収支比率には法律上の基準値はありません。
健全化判断比率は、財政健全化法に基づく4つの指標です。自治体の長は毎年度、決算に基づいてこれらを算定し、監査委員の審査に付したうえで議会に報告し、公表しなければなりません(地方公共団体の財政の健全化に関する法律第3条第1項)。市町村の基準は次のとおりです。
- 実質赤字比率:一般会計などの赤字の大きさです。早期健全化基準は財政規模に応じ11.25〜15%、財政再生基準は20%です。
- 連結実質赤字比率:公営企業会計などを含む全会計の赤字の大きさです。早期健全化基準は16.25〜20%、財政再生基準は30%です。
- 実質公債費比率:借入金の返済額などの重さ(3か年平均)です。早期健全化基準は25%、財政再生基準は35%です。18%以上になると、地方債の発行に原則として総務大臣などの許可が必要になります。
- 将来負担比率:地方債残高など将来負担すべき実質的な負債の大きさです。市町村(政令指定都市を除く)の早期健全化基準は350%で、財政再生基準はありません。
いずれかの比率が早期健全化基準以上になると財政健全化計画、財政再生基準以上になると財政再生計画の策定が義務付けられます。全国の水準を見ると、市町村の実質公債費比率は令和7年度決算(速報)で5.5%です。将来負担比率は、総務省「令和8年版地方財政白書」(令和8年3月)によると令和6年度(2024年度)決算で6.2%(市町村、加重平均)です。いずれも基準を大きく下回っています。同じ白書によると、令和6年度決算で早期健全化基準以上の団体は、財政再生基準以上の1団体(北海道夕張市)のみでした。
健全化判断比率が低くても、経常収支比率が高ければ予算の自由度は小さいという点に注意が必要です。この記事の架空の自治体であるみらい市の設定では、経常収支比率は約93%で、全国の市町村平均並みの「ゆとりの少ない」状態です。自分の自治体の数値は、各自治体が毎年9月ごろから公表する健全化判断比率の公表資料や、決算カードで確認できます。
3-5新しい事業に使えるお金は数% ― 現場の財源感覚#
Q新規事業の予算はなぜ通りにくいのか?
新しい事業に自由に使えるお金は、予算総額が数百億円あっても予算全体の数%程度にすぎない、というのが多くの自治体の財政課の実感です。新規事業の予算が通りにくいのは、事業の良し悪し以前に、財源のゆとりがほとんどないからです。
この記事の架空の自治体であるみらい市の設定で、この記事の試算をしてみます。一般会計当初予算は約230億円ですが、そのうち市税や普通交付税などの経常一般財源は約110億円です。経常収支比率が約93%ということは、約110億円のうち約102億円が、人件費・扶助費・公債費や、施設の維持管理費、特別会計への繰出金などの経常的な経費で毎年すでに埋まっていることを意味します。残る経常一般財源は約8億円で、予算総額の3〜4%程度です。
しかも、この約8億円をまるごと新規事業に使えるわけではありません。まず、次のような臨時的・増加分の経費に充てられます。
- 建設事業の地方負担分(国庫補助金や地方債で賄えない部分)
- 物価高騰による委託料や光熱費の増加
- 制度改正による扶助費の自然増
- 情報システムの更新などの臨時的な経費
そのうえで、みらい市(この記事の架空例)は毎年度の予算編成で財政調整基金を5〜8億円取り崩す計画を立てています。これは、既存の事業を続けるだけでも財源が足りていないことを示しています。経常収支比率が90%を超える自治体では、同じような財源構造になっている例が多く見られます。
こうした状況で新規事業を通すには、財源の裏付けを示すことが欠かせません。多くの自治体で、次のような工夫が使われています。
- 国庫補助金や交付税措置のある地方債など、特定財源を確保する
- 効果の薄れた既存事業を廃止・縮小し、その財源を振り替える(スクラップ・アンド・ビルド)
- ふるさと納税の寄附金や特定目的基金など、使途に合った財源を充てる
- 小規模な試行(モデル事業)から始め、効果を示してから拡大する
財政課の担当者が新規要求に対して「財源はどうするのか」「何をやめるのか」と問うのは、意地悪ではなく、自由に使えるお金が数%しかないという財源感覚に基づくものです。予算要求をする事業課の職員も、この財源構造を理解したうえで要求書を書くことが、予算を通す近道になります。どの財源を充てられるかは、所属自治体の予算編成方針と財政課の指示で確認してください。
参考資料・出典
第3章の本文で使った統計・法令・通知の出典は次のとおりです。
- 総務省「令和7年度市町村普通会計決算の概要(速報)」(令和8年9月29日公表):https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01zaisei07_02000458.html (本体PDF:https://www.soumu.go.jp/main_content/001093338.pdf )
- 総務省「令和8年版 地方財政白書(令和6年度決算)」(地方財政の状況、令和8年3月):https://www.soumu.go.jp/main_content/001063943.pdf
- 総務省「公共施設等総合管理計画の策定にあたっての指針の策定について」(平成26年4月22日付総財務第75号。策定要請は同日付総財務第74号総務大臣通知):https://www.soumu.go.jp/main_content/000287574.pdf
- 総務省自治財政局財務調査課「公共施設等の総合的適正管理の更なる推進について」(令和3年4月23日):https://www.soumu.go.jp/main_content/000755349.pdf
- 地方公共団体の財政の健全化に関する法律(平成19年法律第94号)第3条:https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000094
法令はe-Gov法令検索の現行条文、統計は総務省等の公表資料(基準時点は本文に記載)によります。