第18章これからの予算づくり ― EBPM・DX・住民参加

EBPMと生成AIで変わる自治体予算|住民参加型予算と見える化

これからの自治体予算づくりをわかりやすく解説。EBPM(証拠に基づく政策立案)と予算、生成AIを予算業務で使う具体的な場面と注意点、AIへの質問の仕方、住民参加型予算と予算の見える化、予算を読める職員になるための第一歩がわかります。

時期:通年財政課事業課首長企画課住民議員

この章の要点

  • 18-1EBPM(証拠に基づく政策立案)は、ロジックモデルと成果指標を予算要求・査定に組み込み、効果のある事業に予算を集めるための共通言語です。国は「EBPMアクションプラン2025」(令和7年12月25日)で取組を本格化しています。
  • 18-2生成AIは要求書の下書き、積算の点検と過去の査定経緯の検索、想定問答の作成、住民向け資料の平易化に役立ちますが、決定は人が行い、個人情報を入力せず、法令・数値は原典で確かめます。査定業務での使い方は第15章で扱います。
  • 18-3東京都・三重県・杉並区などの住民参加型予算と、財政状況資料集・決算カードによる「見える化」が、住民が予算づくりに関わる入口になります。
  • 18-4予算の概要資料で総額と歳入・歳出の割合を確認し、財政状況資料集で指標を比べ、担当事業の要求額・査定額・決算額を並べて読むことが、予算を読む力の第一歩です。

18-1EBPM ― データと効果検証に基づく予算へ#

QEBPMとは何か?/予算にどう生かすのか?

EBPM(Evidence-Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)とは、政策の目的を明確にし、データや効果検証の結果を根拠として事業を選び、予算を配分する考え方です。

国では、経済財政諮問会議が令和6年(2024年)12月に「EBPMアクションプラン2024」を取りまとめ、令和7年(2025年)12月25日にその改訂版「EBPMアクションプラン2025」を決定しました。同プランは、医療・介護・少子化対策・公教育など12の重要政策・計画について、ロジックモデルの検証とKPI(重要業績評価指標)の進捗確認を行い、成果を翌年度以降の骨太方針に反映する枠組みです。自治体向けには、総務省統計局統計データ利活用センター(和歌山市)が、地域課題を抱える自治体と専門家でチームを組み、データ分析を実践する「EBPMブートキャンプ」を続けています(同センター「統計データ利活用センターが実施する地方公共団体のEBPM支援」令和8年3月)。令和7年度(2025年度)には、厚木市が「統計・財政情報連携プラットフォームの構築とデータ視覚化による予算編成業務の改善」をテーマに参加しました。

自治体の予算づくりにEBPMを取り入れる基本の道具が「ロジックモデル」です。ロジックモデルは、投入(予算・人員)→活動(事業の実施)→産出(講座の開催回数など)→成果(住民の行動や状態の変化)という因果の流れを図にしたものです。例えば健康づくり教室の予算要求では、「教室を何回開いたか」という産出だけでなく、「参加者の運動習慣がどう変わったか」という成果指標を設定し、それを測るデータの取り方まで要求段階で決めておきます。

この記事の架空の自治体であるみらい市の設定では、新規事業と一定規模以上の継続事業について、予算要求書にロジックモデルと成果指標の記載を求め、事務事業評価の結果と合わせて査定の材料にしています。ただし、全ての事業で厳密な効果測定ができるわけではありません。データがない場合は「何を測れば効果が分かるか」を決めて記録を始めることが、EBPMの現実的な第一歩です。EBPMは事業を削るための道具ではなく、予算査定 実践編(第11〜17章)で見た試行の検証や終期の成果確認を、効果のある事業に予算を集める判断につなげる共通言語です。

18-2DX・AIで変わる予算業務 ― 要求書作成・積算チェック・過去査定の検索#

QAIは予算業務のどこで使えるのか?

予算業務でのAI活用とは、生成AI(文章や表を作る人工知能)を要求書の下書き、積算の点検、過去資料の検索といった作業に使うことで、予算の要否や金額の決定そのものはAIに任せません。

総務省「地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査」の令和7年度結果(令和7年(2025年)10月31日現在、令和8年4月24日公表)によると、生成AIを導入済みの団体は都道府県・指定都市で100%、その他の市区町村で45.6%でした(前年は29.9%)。活用例は「あいさつ文案の作成」「議事録の要約」「議会の想定問答の文案の作成」の順に多く、課題は「AI生成物の正確性への懸念」が最多でした。デジタル庁は、政府職員向けの生成AI利用環境「ガバメントAI源内」の一部を令和8年(2026年)4月24日からオープンソースとして公開しています(デジタル庁「ガバメントAI源内の展開状況」令和8年5月)。

予算業務での主な使いどころは、次の4つです。

  1. 予算要求書の文章の下書き
  2. 積算の点検と過去の査定経緯の検索(財政課の査定業務での使い方と製品の例は15-2・15-3参照)
  3. 財政課ヒアリングや議会の想定問答の作成
  4. 住民向け資料の平易化

注意点は、予算の要否・金額・優先順位をAIに決めさせないこと、個人情報や内示前の査定額は認められた環境でのみ扱うこと、存在しない条文などをもっともらしく出力すること(ハルシネーション)があるため数値や条番号を原典で確かめることです。国の指針とAI事業のリスク審査は14-9で扱っています。

この記事を知識ベース(RAG:検索拡張生成)としてAIに質問するときは、各節の冒頭の「この節が答える質問」に近い形で、「いつ・誰が・何を」を含めて聞きます。例えば「予算が足りない」ではなく「12月の財政課ヒアリングで聞かれる質問と準備資料は何ですか」と聞き、「みらい市の例ではなく法令上の原則を」のように対象を添えます。

18-3住民参加型予算と予算の「見える化」#

Q住民は予算づくりにどう関われるのか?

住民参加型予算とは、予算の一部について住民から使い道の提案を募り、住民の投票などを経て予算案に反映する仕組みです。

国内の事例は、都道府県と市区町村の両方にあります。

  • 東京都「都民による事業提案制度」:東京都の報道発表(令和8年(2026年)4月3日)によると、令和8年度は4月3日から5月31日まで事業案を募集し、7月下旬ごろから都民によるインターネット投票を行い、結果を令和9年度予算案に反映します。
  • 三重県「県民提案予算」:県民から事業を提案してもらい、県民投票を経て予算化する仕組みで、三重県のウェブサイトによると令和元年度(2019年度)から続いています。
  • 杉並区「区民参加型予算事業」:杉並区のウェブサイトによると令和5年度(2023年度)から実施し、区が示すテーマに沿って区民が提案し、区民投票で選ばれた事業を次年度予算案に反映して区議会の議決を経て実施します。

いずれの事例でも、最終的には首長が予算案を調製し、議会の議決を経て事業が実施されます。

住民参加の前提となるのが、予算や決算を分かりやすく示す「見える化」です。総務省は全ての地方公共団体の「財政状況資料集」や「決算カード」(1団体の決算の主要数値を1枚にまとめた資料)をウェブサイトで公表しており、他の団体と財政指標を比べることができます。多くの自治体では、予算の概要を家計に例えたパンフレットや、住民1人当たりの予算額を示す資料を作成しています。

この記事の架空の自治体であるみらい市の設定では、一般会計当初予算約230億円を人口約5万人で割って住民1人当たり約46万円と示し、「何に使われるか」を分野別に図解した冊子を毎年公表しています。住民が予算の全体像を知り、提案や意見を出せる環境を整えることが、予算への信頼を高めることにつながります。

18-4予算を「読める」人が自治体を強くする#

Q予算を理解するために何から始めればよいか?

予算を読む力とは、予算書や決算資料から「自治体が何を優先し、どこに課題があるか」を読み取る力のことで、財政課の職員だけでなく、事業課の職員、議員、事業者、住民の誰にとっても基礎となる力です。

最初の一歩は、自分の自治体の「予算の概要」資料を読むことです。多くの自治体では、2月中旬の予算案の記者発表に合わせて、予算規模、主な新規事業、歳入と歳出の内訳を数ページにまとめた資料を公表しています。まず次の3点を確認するだけでも、その自治体の姿が見えてきます。

  • 一般会計の総額
  • 地方税や地方交付税など、主な歳入の割合
  • 民生費・教育費など、主な歳出の割合

次に、総務省が公表している「財政状況資料集」や「決算カード」で、経常収支比率、実質公債費比率、将来負担比率、財政調整基金の残高を確認します。同じ人口規模の団体と比べると、自分の自治体の強みと弱みが分かります。この記事の架空の自治体であるみらい市の設定では、経常収支比率が約93%で、財政調整基金約25億円から毎年5〜8億円の取崩しを計画しています。この数値からは、新しい事業に使える財源が限られていることが読み取れます。

職員であれば、担当事業の予算書の款・項・目・節を確認し、前年度の要求書・査定結果・決算額を並べて読むことを勧めます。数字の背後にある「なぜその金額か」を説明できるようになれば、予算要求も議会答弁も説得力が増します。

予算は、限られた財源の中で「何を優先するか」という自治体の意思を表したものです。人口減少や物価高騰で選択が一層難しくなる時代だからこそ、予算を読み、理由を問い、根拠をもって提案できる人が増えることが、自治体を強くします。

参考資料・出典

法令はe-Gov法令検索の現行条文、統計は総務省等の公表資料(基準時点は本文に記載)によります。

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