第9章執行・補正・決算 ― 予算は作って終わりではない
補正予算・流用・繰越明許費とは|予算の執行から決算認定まで
予算の執行から決算までをわかりやすく解説。支出負担行為と契約、流用と予備費充用のルール、補正予算と専決処分、繰越明許費と事故繰越の違い、監査委員の決算審査と議会の決算認定、健全化判断比率と翌年度予算への反映がわかります。
この章の要点
- 9-1予算の執行は支出負担行為(地方自治法第232条の3)から始まり、会計管理者の確認を経て支出され、契約は一般競争入札が原則です(同法第234条)。
- 9-2年度途中の不足には、予算で定めた項間の流用(同法第220条第2項)や予備費充用(同法第217条)で対応し、大きな不足は補正予算で対応するのが原則です。
- 9-3補正予算は予算調製後の事由で変更が必要なときに組み(同法第218条第1項)、緊急時などには専決処分(同法第179条)があり、次の会議で議会の承認を求めます。
- 9-4年度内に終わらない事業は、予算で定める繰越明許費(同法第213条)か、支出負担行為済みで避けがたい事故による事故繰越(同法第220条第3項ただし書)で翌年度に繰り越します。
- 9-5決算は5月31日の出納閉鎖後3か月以内に会計管理者が調製し、監査委員の審査を経て議会の認定に付されます(同法第233条)。剰余金の2分の1以上は積立てか繰上償還に充てます(地方財政法第7条第1項)。
- 9-6健全化判断比率は毎年度、監査委員の審査を経て議会に報告・公表され(財政健全化法第3条)、決算の結果は不用額の見直しや中期財政見通しを通じて次の予算編成に生かされます。
9-1予算の執行 ― 支出負担行為・契約・入札#
Q予算が成立したらすぐお金を使えますか?
予算の執行とは、議決された予算に基づいて、支出負担行為、契約、支出命令という手続を踏んで実際にお金を使うことです。予算が成立しても、職員が自由に支出できるわけではありません。
予算は4月1日から執行できます。ただし、長は政令で定める基準に従って予算の執行に関する手続を定め、これに従って執行しなければなりません(地方自治法第220条第1項)。多くの自治体では予算規則や予算執行規則を定め、年度当初に財政課が各課へ予算を「配当(令達)」し、事業課はその範囲内で執行します。四半期ごとに執行計画を立てさせる自治体もあります。
支出の起点となるのが支出負担行為です。支出負担行為とは、支出の原因となる契約その他の行為のことで、法令または予算の定めるところに従って行わなければなりません(地方自治法第232条の3)。次のような行為が当たります。
- 工事の発注
- 物品の購入
- 委託契約
- 補助金の交付決定
支出負担行為の後、債務が確定すると、長の支出命令を受けた会計管理者が支払います。会計管理者は、支出負担行為が法令や予算に違反していないこと、債務が確定していることを確認したうえでなければ支出できません(地方自治法第232条の4第2項)。
契約の方法は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約、せり売りの4つです(地方自治法第234条第1項)。一般競争入札が原則で、それ以外の方法は政令で定める場合に限られます(同法第234条第2項)。少額の随意契約ができる上限額は地方自治法施行令第167条の2第1項第1号と別表第5で定められ、物価上昇などを踏まえて令和7年(2025年)4月1日施行で引き上げられました。指定都市以外の市区町村の上限額は、工事・製造の請負200万円、財産の買入れ150万円、物件の借入れ80万円、財産の売払い50万円、物件の貸付け30万円、その他100万円です(総務省「随意契約の基準額の見直しについて」)。例えば工事・製造の請負は130万円から200万円に上がりました。実際の運用は所属自治体の財務規則・契約規則で確認してください。
なお、4月1日から始まる清掃や電算保守の委託は、前年度中に入札・契約を済ませる必要があります。その場合は予算に債務負担行為を設定しておくのが一般的です。
9-2流用と予備費充用のルール#
Q予算が足りなくなったらどうしますか?
流用と予備費充用とは、年度の途中で予算が足りなくなったとき、補正予算を組まずに対応する2つの方法です。流用は科目間で予算を移すこと、予備費充用は予備費を実際の経費に振り向けることです。
流用は、歳出予算のある科目から別の科目へ予算を移すことです。歳出予算の経費の金額は、各款の間または各項の間で相互に流用できません(地方自治法第220条第2項本文)。款と項は議会が議決する「議決科目」だからです。ただし、各項の間の流用は、予算の執行上必要がある場合に限り、予算の定めるところにより認められます(同法第220条第2項ただし書)。多くの自治体では、当初予算の条文に「人件費(給料・職員手当等・共済費)に過不足が生じた場合の同一款内の各項間の流用」を定めています。一方、目と節は「執行科目」と呼ばれ、その間の流用は予算規則などに基づき長の権限で行えます。実務では、事業課が流用の理由を示して財政課の合議・承認を受けるのが一般的です。交際費への流用を禁止するなどの制限を設けている自治体も多くあります。
予備費は、予算外の支出や予算超過の支出に充てるため、歳入歳出予算に計上しなければならない経費です(地方自治法第217条第1項)。特別会計では計上しないことができます(同項ただし書)。予備費を実際の経費に振り向けることを「充用」といい、長の判断で行えます。ただし、議会が否決した費途に充てることはできません(同法第217条第2項)。
この記事の架空の自治体であるみらい市の設定では、一般会計に予備費を数千万円程度計上し、突発的な修繕や災害の初動対応などに充てています。流用や予備費充用は便利ですが、多用すると予算の見積りの甘さを示すことになります。そのため財政課は理由を厳しく確認します。不足額が大きい場合や新たな事業を始める場合は、補正予算で対応するのが原則です。流用の範囲や手続は自治体ごとに異なるため、所属自治体の財務規則・予算規則で確認してください。
9-3補正予算と専決処分#
Q補正予算はどんなときに組みますか?/専決処分とは何ですか?
補正予算とは、予算の調製後に生じた事由により既定の予算に追加その他の変更を加えるとき、長が調製して議会に提出する予算です(地方自治法第218条第1項)。専決処分とは、本来議会の議決が必要な事件を、法律の要件を満たす場合に長が代わって処分することです。
多くの自治体では、6月・9月・12月・3月の各定例会に補正予算を提出します。典型的な理由は次のとおりです。
- 国や都道府県の補助金の内示・追加
- 災害対応
- 制度改正
- 扶助費の見込み増
- 前年度決算で確定した繰越金の計上
3月補正では、年度末に向けた事業費の精算(減額)、基金への積立て、国の経済対策補正予算に対応した事業の前倒し計上などをまとめて行います。
専決処分は、地方自治法第179条第1項が定める次の場合に、長が議会の議決すべき事件を処分できる制度です。
- 議会が成立しないとき
- 会議を開くことができないとき
- 特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると長が認めるとき
- 議会が議決すべき事件を議決しないとき
この場合、長は次の会議で議会に報告し、承認を求めなければなりません(同法第179条第3項)。予算に関する処置の承認を求める議案が否決されたときは、長は速やかに必要と認める措置を講じ、その旨を議会に報告しなければなりません(同法第179条第4項)。
これとは別に、議会の権限に属する軽易な事項で、議会の議決により特に指定したものは、長が専決処分にできます(地方自治法第180条第1項)。処分後は議会に報告します(同法第180条第2項)。損害賠償額の決定などが典型で、補正予算は通常この対象になりません。
実務で予算の専決処分が行われるのは、災害時の緊急対応や、年度末の3月31日付けで地方交付税や地方譲与税の確定額などを計上する場合などです。専決処分は議会の審議権に関わるため、要件を満たすかを慎重に判断する必要があります。
9-4繰越明許費・事故繰越 ― 年度内に終わらない事業#
Q年度内に工事が終わらない場合はどうなりますか?
繰越明許費と事故繰越とは、年度内に工事や事業が終わらない場合に、歳出予算を翌年度に持ち越して使う2つの仕組みです。繰越明許費は予算で事前に定めるもの、事故繰越は避けがたい事故を理由に事後に行うものです。
予算は会計年度独立の原則により、その年度内に使うのが原則です。繰越明許費の金額を除き、毎会計年度の歳出予算の経費の金額は翌年度に使用できません(地方自治法第220条第3項本文)。その例外が次の2つです。
繰越明許費は、歳出予算の経費のうち、その性質上または予算成立後の事由により年度内に支出が終わらない見込みのあるものを、予算の定めるところにより翌年度に繰り越して使用できるようにする仕組みです(地方自治法第213条)。あらかじめ予算書の「繰越明許費」の表に事業名と金額を定め、議会の議決を受ける必要があります。典型的な理由は次のとおりです。
- 用地交渉の難航
- 国の補正予算に伴う年度末の事業追加
- 資材不足による工期の延長
多くの自治体では、3月補正予算で繰越明許費を追加設定します。繰り越した場合、長は翌年度の5月31日までに繰越計算書を調製し、次の会議で議会に報告しなければなりません(地方自治法施行令第146条第2項)。
事故繰越は、年度内に支出負担行為をしたものの、避けがたい事故のため年度内に支出が終わらなかった経費を翌年度に繰り越す仕組みです(地方自治法第220条第3項ただし書)。予算での事前の定めは不要です。ただし、年度内に契約などの支出負担行為が済んでいることが前提で、予期しない災害や事故などによる場合に限られます。事故繰越の場合も、繰越明許費と同様に繰越計算書を調製して議会に報告します(地方自治法施行令第150条第3項による同令第146条の準用)。
この記事の架空の自治体であるみらい市の設定では、毎年3月補正で道路改良や学校施設改修などの繰越明許費を設定しています。繰越は便利な仕組みですが、繰越額が多いと「予算の見積りや工程管理が甘い」と議会や監査委員から指摘されます。そのため財政課は理由と完了見込みを確認します。
9-5決算の流れ ― 監査委員の審査から9月議会の認定まで#
Q決算はいつ誰が確認しますか?
決算とは、年度が終わった後に歳入歳出の実績を確定させる手続で、会計管理者が調製し、監査委員が審査し、議会が認定します。流れは地方自治法第233条が定めています。
決算作業は5月31日の出納閉鎖から本格化します。出納閉鎖とは、前年度の現金の収入・支出の整理を締め切ることで、普通地方公共団体の出納は翌年度の5月31日をもって閉鎖します(地方自治法第235条の5)。その後は次の流れで進みます。
- 調製:会計管理者が決算を調製し、出納閉鎖後3か月以内(8月31日まで)に、証書類などと併せて長に提出します(地方自治法第233条第1項)。
- 監査委員の審査:長は決算と関係書類を監査委員の審査に付します(同法第233条第2項)。監査委員は計数の正確性や予算執行の適正性を確認し、意見書をまとめます。意見の決定は監査委員の合議によります(同法第233条第4項)。
- 議会の認定:長は、監査委員の意見を付けて、次の通常予算を議する会議までに決算を議会の認定に付します(同法第233条第3項)。その際、当該年度の主要な施策の成果を説明する書類なども併せて提出します(同法第233条第5項)。法律上の期限は翌年の3月定例会までですが、多くの自治体では9月定例会で認定に付し、決算特別委員会などで審査します。
- 公表:長は、議会の認定に付した決算の要領を住民に公表します(同法第233条第6項)。
決算が認定されなかった(不認定)場合でも、すでに行われた収入・支出の効力には影響しません。ただし、長は議決を踏まえて必要と認める措置を講じたときは、速やかにその内容を議会に報告し、公表しなければなりません(地方自治法第233条第7項)。
決算で生じた剰余金(歳計剰余金)は、翌年度の歳入に編入しなければなりません(地方自治法第233条の2本文)。条例の定めまたは議会の議決により、翌年度に繰り越さずに基金に編入することもできます(同条ただし書)。さらに、剰余金のうち2分の1を下らない金額は、剰余金を生じた翌々年度までに積み立てるか、繰上償還する地方債の償還財源に充てなければなりません(地方財政法第7条第1項)。この記事の架空の自治体であるみらい市の設定では、この剰余金の一部を財政調整基金に積み立て、毎年5〜8億円程度の取崩しを補う財源にしています。
9-6健全化判断比率の公表と次年度予算へのフィードバック#
Q決算の結果は翌年度予算にどう生かされますか?
健全化判断比率とは、決算に基づいて毎年度算定・公表する4つの財政指標(実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率、将来負担比率)です。決算の数字は、この比率の公表を通じて、翌年度以降の予算編成に反映されます。
長は毎年度、前年度の決算の提出を受けた後速やかに、健全化判断比率とその算定の基礎となる事項を記載した書類を監査委員の審査に付し、その意見を付けて議会に報告し、公表しなければなりません(地方公共団体の財政の健全化に関する法律(財政健全化法)第3条第1項)。指定都市を除く市町村の長は、公表した比率を速やかに都道府県知事に報告します(都道府県と指定都市の長は総務大臣に報告。同法第3条第3項)。多くの市町村では、9月定例会で決算の認定と併せて報告しています。公営企業会計については、資金不足比率を同様に報告・公表します。
健全化判断比率のいずれかが早期健全化基準以上になると、財政健全化計画を定めなければなりません。市町村の早期健全化基準は次のとおりです(総務省「早期健全化基準と財政再生基準」による)。
- 実質赤字比率:財政規模に応じて11.25〜15%
- 連結実質赤字比率:財政規模に応じて16.25〜20%
- 実質公債費比率:25%
- 将来負担比率:350%(指定都市は400%)
さらに実質赤字比率・連結実質赤字比率・実質公債費比率が財政再生基準(市町村はそれぞれ20%、30%、35%)以上になると、財政再生計画の策定が必要になります。将来負担比率には財政再生基準がありません。
決算は、次の予算づくりの出発点でもあります。この記事の架空の自治体であるみらい市の設定では、決算の数字を次のように翌年度以降の予算に反映します。
- 不用額(予算を使い残した額)が大きい事業は、翌年度予算の要求額を見直す。
- 主要な施策の成果説明書や事務事業評価の結果を、秋の予算編成方針や財政課ヒアリングの資料に使う。
- 決算統計(地方財政状況調査)で算出する経常収支比率(みらい市の設定では約93%)の推移を中期財政見通しに反映し、シーリングや財政調整基金の取崩し額の設定に生かす。
- 決算特別委員会での議員の指摘事項を、翌年度予算の査定の論点として引き継ぐ。
予算は「計画(予算編成)→実行(執行)→評価(決算・評価)→改善(次年度予算)」というサイクルで回ります。決算は、評価から改善へつなぐ要の工程です。
参考資料・出典
- 地方自治法(昭和22年法律第67号)第179条、第180条、第213条、第217条、第218条、第220条、第232条の3、第232条の4、第233条、第233条の2、第234条、第235条の5(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000067
- 地方自治法施行令(昭和22年政令第16号)第146条、第150条、第167条の2・別表第5(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/322CO0000000016
- 地方財政法(昭和23年法律第109号)第7条(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000109
- 地方公共団体の財政の健全化に関する法律(平成19年法律第94号)第3条(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000094
- LawPlayer「地方自治法」(e-Gov準拠の現行条文。本章の条文確認に使用)https://lawplayer.com/jp/act/322AC0000000067
- 総務省「随意契約の基準額の見直しについて」(令和7年4月1日施行の基準額)https://www.soumu.go.jp/main_content/001026062.pdf
- 総務省「早期健全化基準と財政再生基準」https://www.soumu.go.jp/iken/zaisei/kenzenka/index3.html
法令はe-Gov法令検索の現行条文、統計は総務省等の公表資料(基準時点は本文に記載)によります。