第5章春〜夏:計画と評価の季節

事務事業評価と出納閉鎖|4月〜9月の予算業務とサマーレビュー

自治体の4月から9月の予算業務をわかりやすく解説。人事異動と予算の引継ぎ、5月31日の出納閉鎖と出納整理期間、事務事業評価(行政評価)の書き方と予算への反映、実施計画のローリング、大型事業を夏に調整するサマーレビューがわかります。

時期:4月〜9月財政課事業課企画課会計課会計管理者首長監査委員

この章の要点

  • 5-14月は人事異動と予算執行の開始が重なり、異動した職員は予算書の該当ページ・前年度の要求書・査定のメモの3点を最初の1週間で確認すると執行と次の要求が楽になります。
  • 5-2出納閉鎖は前年度の現金の出し入れを翌年度5月31日で締め切ることで(地方自治法第235条の5)、会計管理者は閉鎖後3か月以内に決算を調製し(地方自治法第233条第1項)、監査委員の審査を経て9月定例会で認定を受ける自治体が多くあります。
  • 5-3事務事業評価は6月ごろから始まり、評価結果(継続・縮小・廃止など)が10月までに財政課と共有されて予算査定の材料になります。
  • 5-4実施計画のローリング(毎年の見直し)は6月〜9月に行われ、実施計画に載った事業が翌年度予算の要求の出発点になりますが、載らない事業も法律上は予算化できます。
  • 5-5大型・新規事業は8月のサマーレビュー(事前協議)で方向性を固めるため、前年度の春から夏には構想を固めておく必要があります。
  • 5-6夏は評価・計画・決算・議会対応が重なる隠れた繁忙期で、事業ごとの基本データを1枚の「事業カルテ」にまとめて各様式に転記すると作業の重複を減らせます。

5-14月 ― 人事異動と予算執行の開始、引継ぎの実態#

Q4月に異動した職員は予算をどう引き継ぐのか?

4月は、新年度の予算執行が始まると同時に、人事異動で担当者が入れ替わる月です。異動してきた職員は、自分が要求に関わっていない予算を、前任者が残した資料を頼りに執行することになります。

自治体の会計年度は4月1日に始まり(地方自治法第208条第1項)、3月に議決された当初予算に基づいて契約や支出ができるようになります。多くの自治体では、財政課が各課に予算を配当(各課が使える予算額を割り当てること。令達とも呼びます)し、事業課は年間の執行計画を立てて、委託契約・工事発注・補助金の交付申請などを順に進めます。補助事業では、国や都道府県への交付申請の時期が4月から6月に集中することが多く、異動直後の担当者にとって最初の山場になります。

4月はさらに、前年度の後始末とも重なります。前年度に契約・完了した事業の支払いや収入の整理は、5月31日の出納閉鎖(地方自治法第235条の5)まで前年度の会計で行います。そのため担当者は、新年度と前年度の2つの年度を同時に扱います。

引継ぎは、多くの自治体で「事務引継書」に担当事業の概要、予算額、契約状況、懸案事項などを書いて渡す方法がとられています。ただし実際には、異動の内示から着任までが1〜2週間程度と短いことが多く、口頭の説明と前年度のファイルだけで引き継がれる例も少なくありません。特に引き継がれにくいのは、次の2つです。

  • 「なぜこの金額になったのか」という積算の根拠
  • 財政課の査定で付いた条件(例えば「次年度は見直すこと」)

この記事の架空の自治体であるみらい市の設定では、予算要求時の要求書・査定結果・見積書を事業ごとに1つのフォルダにまとめ、後任が「予算の履歴」を追えるようにすることを推奨しています。異動してきた職員は、最初の1週間で次の3点を確認しておくと、その後の執行と次の予算要求がずっと楽になります。

  1. 担当事業が載っている予算書の該当ページ
  2. 前年度の予算要求書
  3. 財政課の査定のメモ

5-25月31日の出納閉鎖と決算作業の始まり#

Q出納閉鎖とは何か?

出納閉鎖とは、前年度の現金の出し入れ(出納)を締め切ることで、翌年度の5月31日と定められています(地方自治法第235条の5)。出納閉鎖の日をもって前年度の会計の現金の動きが確定し、決算作業が本格的に始まります。

会計年度は3月31日で終わります。しかし、3月末までに契約や工事が完了したもののまだ支払っていない経費や、収入として確定したもののまだ入金されていない収入があります。これらを整理するための4月1日から5月31日までの2か月間を、一般に出納整理期間と呼びます。出納整理期間に新たな契約をすることはできず、年度内に確定した債権・債務の現金整理だけを行います。

出納閉鎖の後は、次の流れで決算が進みます。

  1. 決算の調製:会計管理者が決算を調製し、出納閉鎖後3か月以内(8月31日まで)に、証書類などとあわせて首長に提出します(地方自治法第233条第1項)。
  2. 監査委員の審査:首長は決算を監査委員の審査に付します(地方自治法第233条第2項)。
  3. 議会の認定:首長は監査委員の意見を付けて、次の通常予算を議する会議までに決算を議会の認定に付します(地方自治法第233条第3項)。このとき、主要な施策の成果を説明する書類もあわせて提出します(同条第5項)。

この記事の架空の自治体であるみらい市を含め、多くの自治体では9月定例会で決算の認定を受けます。そのため6月から8月にかけて、次の作業が並行します。

  • 会計課(会計管理者):決算書の作成
  • 財政課:決算統計(地方財政状況調査)と健全化判断比率の算定
  • 事業課:主要な施策の成果を説明する書類の原稿作成

出納閉鎖は春の静かな行事ではなく、夏の決算作業の号砲と考えるのが実態に近いでしょう。

5-3行政評価・事務事業評価 ― 前年度事業の振り返り#

Q事務事業評価は予算とどう関係するか?

事務事業評価とは、自治体が行う個々の事業について、目的・成果・費用を振り返り、継続・拡充・縮小・廃止などの方向性を判断する仕組みです。多くの自治体では、出納閉鎖で前年度の実績が固まった後の6月ごろから評価作業が始まり、その結果を秋の予算編成に反映させます。

行政評価には、政策・施策・事務事業という3つの階層があり、最も件数が多く予算と直結するのが事務事業評価です。行政評価そのものは法律で義務付けられた制度ではなく、各自治体が独自に導入しています。総務省「地方公共団体における行政評価の取組状況等に関する調査結果」(平成28年(2016年)10月1日現在)によると、都道府県と指定都市・中核市・施行時特例市ではほぼ全団体、その他の市区でも8割以上が導入している一方、町村では約4割(38.9%)にとどまっていました。

この記事の架空の自治体であるみらい市の設定では、事業課が次の項目を記入した評価シートを作ります。

  • 事業の目的と対象
  • 前年度の決算額と従事した職員の人件費(フルコスト)
  • 活動指標(例:講座の開催回数)と成果指標(例:参加者の満足度、受講後の就労者数)
  • 課題と今後の方向性(継続・改善・統合・縮小・廃止)

評価シートは企画課(行政評価の担当課)が取りまとめ、予算編成方針が出る10月までに財政課と共有されます。財政課は評価結果を予算査定の材料として使います。例えば「縮小」と評価された事業の要求額が増えていれば、財政課はその理由を財政課ヒアリングで確認します。

評価が予算に与える影響は自治体によって差があります。「評価のための評価」になって予算と結び付いていない、という課題も各地で指摘されています。評価を予算に生かすには、成果指標を予算要求書にも転記させるなど、評価シートと要求書の様式をつなげる工夫が有効です。評価の様式と予算への反映方法は自治体ごとに異なるため、所属自治体の行政評価の実施要領で確認してください。

5-4総合計画・実施計画のローリング ― 来年度事業の「種」#

Q実施計画に載らない事業は予算化できないのか?

総合計画とは自治体の長期的なまちづくりの方針を示す計画で、その中の実施計画は、今後3年程度に行う具体的な事業と事業費の見込みを示すものです。多くの自治体では、実施計画を毎年見直す「ローリング」の作業を夏に行い、そこに載った事業が翌年度予算の要求の出発点になります。

総合計画は、一般に次の3層で作られます。

  • 基本構想:10年程度の将来像
  • 基本計画:5年程度の施策体系
  • 実施計画:3年程度の事業計画

かつては地方自治法第2条第4項により、市町村は基本構想を議会の議決を経て定めることが義務付けられていました。この義務付けは、平成23年(2011年)の地方自治法改正で撤廃されました。現在は各自治体の判断で策定しており、条例で基本構想を議会の議決事件としている自治体もあります。

この記事の架空の自治体であるみらい市の設定では、実施計画のローリングは次のように進みます。

  1. 6月:企画課が各課に、翌年度から3年間の事業の新規・拡充・継続・終了の提案を依頼する。
  2. 7月:各課が事業の概要と年度別事業費の見込みを提出し、企画課と財政課が合同で調整する。財政課は、7月に決定する普通交付税額も踏まえ、中期的な財源の見通しと照らし合わせる。
  3. 8月〜9月:市長・副市長を交えて採択事業を決め、実施計画を改定する。

実施計画に載らない事業は予算化できないのか、という疑問がよく聞かれます。法律上の制限はありません。ただし多くの自治体では「実施計画に位置付けられた事業を優先して予算化する」という運用をとっており、実施計画にない新規事業は、予算要求の段階で「なぜ計画に載せなかったのか」を問われます。一方で、国の補助制度の新設、災害対応、急な制度改正への対応など、計画時点で予見できなかった事業は例外的に扱われるのが一般的です。実施計画と予算要求の関係は自治体ごとに異なるため、所属自治体の予算編成方針で確認してください。

5-5サマーレビュー・事前協議 ― 大型事業は夏に動く#

Q大きな新規事業はいつから準備すべきか?

サマーレビューとは、秋の予算要求に先立って、大型事業や新規事業について財政課と事業課が夏のうちに協議する仕組みです。施設整備やシステム導入など金額の大きな事業は、秋の要求締切の段階からでは検討が間に合わないため、夏に方向性を固めておく必要があります。

名称は自治体によって異なり、「サマーレビュー」「事前協議」「政策調整会議」などと呼ばれます。この記事の架空の自治体であるみらい市の設定では、8月に次の事業を対象に事前協議を行います。

  • 総事業費が一定額(例えば5,000万円)以上の新規事業
  • 公共施設の建設・大規模改修など、複数年度にわたる事業
  • 情報システムの新規導入・更新など、後年度に運用経費が続く事業
  • 債務負担行為(複数年度にわたる契約の支出をあらかじめ約束すること)を設定する事業

事前協議では、次の点が確認されます。

  • 事業の必要性
  • 総事業費と年度別の支出見込み
  • 国庫補助金や地方債など財源の見込み
  • 後年度の維持管理費

ここで「来年度は設計だけ」「補助採択が見込めるまで見送り」といった方向性が決まり、秋の予算要求に引き継がれます。

8月は、国の各府省が8月31日までに概算要求を財務大臣に提出する時期でもあり(予算決算及び会計令第8条)、新しい補助制度の情報が出始めます。大型の新規事業を考えている事業課は、少なくとも前年度の春から夏には構想を固め、実施計画のローリング(毎年の見直し)とサマーレビューの両方に乗せておくのが理想的なスケジュールです。秋になってから相談しても、「今年は間に合わない」と言われることが多いのが実情です。対象となる事業の基準額や協議の時期は自治体ごとに異なるため、所属自治体の財政課の通知で確認してください。

5-6現場の本音 ― 評価と企画が重なる夏の忙しさ#

Q夏の職員はなぜ忙しいのか?

夏は予算編成の繁忙期ではないものの、事業課の職員にとっては評価・計画・決算・議会対応が重なる、隠れた繁忙期です。秋の予算要求の準備も始まるため、「冬より夏の方が忙しい」と感じる職員も少なくありません。

この記事の架空の自治体であるみらい市の事業課の係長を例にとると、6月から9月には次の作業が同時に進みます。

  • 6月:6月定例会の答弁準備と、事務事業評価シートの作成
  • 7月:実施計画への事業提案、補助事業の交付申請や実績報告
  • 8月:サマーレビュー(大型・新規事業の事前協議)の資料作成、主要な施策の成果を説明する書類の原稿作成、監査委員の決算審査への対応
  • 9月:9月定例会の決算審査への答弁準備、秋の予算要求に向けた見積書の依頼

これらの作業は、いずれも「前年度の数字」と「来年度の計画」を行き来するもので、同じ事業について違う様式に何度も同じ内容を書く場面が生じます。評価シート、実施計画の調書、事前協議の資料、成果説明書の内容が少しずつ違う、という悩みはよく聞かれます。

夏を乗り切るコツは、事業ごとの基本データ(目的、対象者数、事業費、成果指標)を1枚の表にまとめ、各様式はそこから転記することです。みらい市(この記事の架空例)では、この「事業カルテ」を評価・計画・予算要求で共通に使い、作業の重複を減らすことを目指しています。夏に整理した数字は、そのまま秋の予算要求書の土台になります。

参考資料・出典

第5章の本文で使った法令・調査の出典は次のとおりです。

法令はe-Gov法令検索の現行条文、統計は総務省等の公表資料(基準時点は本文に記載)によります。

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