第8章2月〜3月:予算案の発表と議会審議

予算案の議会審議の流れ|提出期限・予算特別委員会・骨格予算

予算案の発表から議会の議決までをわかりやすく解説。予算書と記者発表、施政方針、地方自治法第211条の提出期限、3月定例会と予算特別委員会、議会答弁の準備、増額修正の限界・否決・再議、首長選挙の年の骨格予算と肉付け予算がわかります。

時期:2月〜3月財政課事業課首長議会秘書広報課

この章の要点

  • 8-1予算案は2月上旬の内示と予算書・説明資料の作成を経て、2月中旬の記者発表で公表され、3月定例会初日に議会へ提出されます。
  • 8-2施政方針演説は首長が3月定例会初日に行う政策宣言で、目玉事業は金額よりメッセージ性で選ばれやすく、財源と後年度負担の説明が必要です。
  • 8-3予算案の提出期限は、都道府県・指定都市が年度開始の30日前、その他の市町村が20日前です(地方自治法第211条第1項)。
  • 8-43月定例会は、施政方針演説、代表質問・一般質問、予算特別委員会の審査を経て、最終日に出席議員の過半数で議決します。
  • 8-5職員は質問通告を受けて答弁書を書き、部長・副市長・市長のレクチャーと答弁調整を経て確定し、委員会用に想定問答集を作ります。
  • 8-6議会の増額修正は長の予算提出権を侵せず(地方自治法第97条第2項)、再議(同法第176条・第177条)、否決時の暫定予算(同法第218条第2項)、附帯決議の仕組みがあります。
  • 8-7首長選挙の年は義務的経費と継続事業中心の骨格予算を組み、選挙後の6月定例会で肉付け予算(肉付け補正)を加えるのが一般的です。

8-1予算案の確定 ― 予算書・説明資料の作成と記者発表#

Q予算案はいつどのように公表されますか?

予算案の確定とは、首長査定を終えた予算を「予算書」という議案の形に仕上げ、記者発表で住民や報道機関に公表するまでの作業です。多くの自治体では、1月下旬の首長査定から2月中旬の記者発表までの約3週間が、この作業の期間です。

この記事の架空の自治体であるみらい市の設定では、2月上旬に財政課が各部へ査定結果を伝える「内示」を行い、同時に予算書の印刷原稿を固めます。予算書は、議会に提出する議案そのものです。予算書には、地方自治法第215条が定める次の7つの事項を、条文形式の「予算」と別表にまとめます。

  • 歳入歳出予算
  • 継続費
  • 繰越明許費
  • 債務負担行為
  • 地方債
  • 一時借入金
  • 歳出予算の各項の経費の金額の流用

さらに、予算を議会に提出するときは「予算に関する説明書」を併せて提出しなければなりません(地方自治法第211条第2項)。説明書の内容は地方自治法施行令第144条が定めており、歳入歳出予算事項別明細書、給与費明細書、継続費・債務負担行為・地方債現在高の各調書です。数字は款・項・目・節の全段階で一致している必要があり、財政課の査定担当は2月上旬を検算と校正に費やします。

並行して、議員や住民向けの説明資料を作ります。一般的には「予算の概要」「主要事業一覧」「新規・拡充事業の説明」などの冊子で、グラフや写真を使って予算の全体像を分かりやすく示します。

公表は、2月中旬の首長の記者発表で行う例が多くあります。みらい市(この記事の架空例)では、市長が「一般会計約230億円、前年度比○%増」といった総額と、重点施策・新規事業を説明し、記者の質問に答えます。記者発表資料は同日に市のホームページにも掲載します。記者発表の前に内容が外部に漏れないよう、多くの自治体では庁内でも資料の取扱いに注意します。記者発表後、予算案は3月定例会の初日に議案として議会へ提出されます。

8-2施政方針と「予算の目玉」の見せ方#

Q施政方針演説とは何ですか?

施政方針演説とは、首長が新年度の予算案と一体で、議会の本会議場で述べる政策宣言です。自治体により「市政運営方針」「所信表明」などとも呼ばれます。多くの自治体では3月定例会の初日に首長が行います。

施政方針演説を義務付ける規定は地方自治法にはなく、議会運営上の慣行として定着したものです。議会基本条例などで位置付けている自治体もあります。内容は次の構成が一般的です。

  • 社会経済情勢の認識
  • 財政状況
  • 新年度の重点政策
  • 主な事業の説明

演説原稿は企画部門や秘書部門が中心となって作ります。財政課は、原稿に書かれた予算額や事業内容が予算書と食い違っていないかを確認します。

「予算の目玉」の見せ方にも工夫があります。多くの自治体では、総合計画の施策体系に沿って重点事業を3〜5本程度の柱に整理し、「子育て」「防災」「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」といった分かりやすいキーワードを付けます。予算の大半は人件費・扶助費・公債費などの義務的経費と継続事業で占められ、新規事業に回せる額は限られています。そのため、目玉事業は金額の大きさよりも、市民に伝わるメッセージ性で選ばれる例が少なくありません。

ただし、見せ方が先行すると、議会から「看板倒れではないか」「財源の裏付けはあるのか」と質されます。目玉事業ほど、事業目的、成果指標、後年度負担を説明できる準備が必要です。

8-3議会への提出期限 ― 地方自治法第211条#

Q予算案はいつまでに議会に出さなければなりませんか?

予算案の議会への提出期限とは、地方自治法第211条第1項が定める「年度開始前の30日前または20日前」という法律上の期限です。都道府県と指定都市は30日前、その他の市と町村は20日前が期限です。

地方自治法第211条第1項は、普通地方公共団体の長は毎会計年度予算を調製し、年度開始前に議会の議決を経なければならないと定めています。そのうえで、長は遅くとも年度開始前、都道府県と指定都市(地方自治法第252条の19第1項に規定する指定都市)では30日、その他の市と町村では20日までに、予算を議会に提出するようにしなければならないとしています。会計年度は4月1日に始まるため、人口約5万人の一般市であるこの記事の架空の自治体みらい市の場合、期限は4月1日の20日前、おおむね3月12日ごろです。

この期限は、議会が予算を審議する時間を確保するためのものです。実務では、多くの市町村が2月下旬から3月上旬に3月定例会を開会し、その初日に予算案を提出します。したがって、法定期限より早く提出されるのが通常です。

あわせて、予算を提出するときは、政令で定める予算に関する説明書を併せて提出しなければなりません(地方自治法第211条第2項)。説明書の内容は地方自治法施行令第144条が定めており、歳入歳出予算事項別明細書や給与費明細書などが含まれます。

また、同法第211条第1項は「年度開始前に議決を経なければならない」としています。3月31日までに予算が成立しないと、4月1日以降の支出の根拠がなくなります。この場合は、長が一会計年度のうち一定期間に係る暫定予算を調製し、議会に提出できます(地方自治法第218条第2項)。

8-43月定例会の流れ ― 代表質問・一般質問・予算特別委員会#

Q3月議会では予算をどう審議するのですか?

3月定例会とは、新年度の当初予算案を審議する、一年で最も会期が長い定例会です。「予算議会」とも呼ばれます。

この記事の架空の自治体であるみらい市の設定では、3月定例会は2月下旬に開会し、3月下旬の最終日に予算を議決する約1か月の日程です。一般的な流れは次のとおりです。

  1. 開会・議案提出:初日に首長が施政方針演説を行います。続いて、新年度当初予算案、関連する条例改正案、現年度の補正予算案(いわゆる3月補正)などを提出し、提案理由を説明します。
  2. 代表質問:会派の代表が、施政方針や予算全体について首長の考えを質します。代表質問を設けず一般質問のみとする自治体も多くあります。
  3. 一般質問:議員が個人として市政全般について質問します。質問の要旨は事前に通告するのが通例です。
  4. 委員会審査:予算案は予算特別委員会に付託される例が多く、款ごとや部局ごとに担当部長・課長が説明し、委員の質疑に答えます。特別委員会は条例で置くことができ、議会の議決により付議された事件を審査します(地方自治法第109条第1項・第4項)。常任委員会ごとに分割して審査する自治体もあります。
  5. 委員長報告・討論・採決:最終日の本会議で、委員長が審査結果を報告し、賛成・反対の討論の後に採決します。予算の議決は、一般の議案と同様に出席議員の過半数で決します(地方自治法第116条第1項)。

3月補正予算は年度内に執行する必要があるため、多くの自治体では当初予算より先に審議・議決します。

予算を定める議決があったときは、議長は議決の日から3日以内に長へ送付しなければなりません(地方自治法第219条第1項)。長は、再議その他の措置を講ずる必要がないと認めるときは、直ちにその要領を住民に公表しなければなりません(同法第219条第2項)。

8-5答弁準備の実態 ― 想定問答と答弁調整#

Q職員は議会答弁をどう準備するのですか?

答弁準備とは、議会の質問に対して首長や部長が述べる答弁の原稿と、委員会質疑に備える想定問答を、担当課の職員が作る作業です。答弁は首長や部長が行いますが、その原稿の多くは担当課が書いています。

答弁準備の起点は質問通告です。多くの議会では、一般質問や代表質問の要旨を数日前までに文書で通告する決まりがあります。通告が届くと、議会事務局から執行部(首長部局)に共有され、総務課などの取りまとめ担当が「どの部署が答弁を書くか」を割り振ります。担当課は、議員から質問の趣旨を詳しく聞き取る「聞き取り(ヒアリング)」を行う場合もあります。

答弁書は、担当課長が作成し、部長、副市長、市長へと順に確認(レクチャー)を受けて確定します。複数の部署にまたがる質問では、表現や数字の整合を取る「答弁調整」が必要です。調整が夜遅くまで続くことも珍しくありません。財政課は、予算額、財源、後年度負担、財政見通しに関わる答弁の数字が予算書と一致しているかを確認します。

予算特別委員会への備えとして、多くの自治体では各課が「想定問答集」を作ります。次のような内容を一問一答形式でまとめ、説明員が手元で参照します。

  • 過去の委員会での質疑
  • 新規事業の積算根拠
  • 前年度との増減理由
  • 補助金の採択見込み

予算要求書や査定資料が、ここでそのまま答弁の根拠資料になります。みらい市(この記事の架空例)では、新人職員が初めて想定問答を書くとき、「なぜこの金額なのか」を説明できずに困ることがあります。予算要求の段階で積算の根拠を丁寧に残しておくことが、議会答弁を楽にする一番の準備です。

8-6修正・否決・附帯決議と議決後の流れ#

Q予算案が否決されたらどうなりますか?

予算案の修正・否決・附帯決議とは、議会が予算案をそのまま可決しない場合の3つの対応です。それぞれ法律上の意味と、その後の流れが異なります。

修正:議会は予算案を修正して議決できます。減額修正は可能ですが、増額修正には制限があります。議会は予算について増額して議決することを妨げられませんが、長の予算の提出の権限を侵すことはできません(地方自治法第97条第2項)。予算の提案権は長に専属するため、予算の趣旨を損なうような増額修正は長の発案権の侵害になると解されています。国の通知(昭和52年10月3日付自治行第59号自治省行政局長通知「予算の増額修正について」)は、増額修正の内容、規模、予算全体との関連、行財政運営への影響度などを総合的に勘案して個別に判断すること、議会が修正しようとするときは長と議会の間で調整することが望ましいとしています。

再議:長は、予算に関する議決に異議があるときは、議決の送付を受けた日から10日以内に理由を示して再議に付することができます(地方自治法第176条第1項)。再議の結果、予算に関する議決を再び同じ内容で確定させるには、出席議員の3分の2以上の同意が必要です(同法第176条第2項・第3項)。また、法令により負担する経費など義務に属する経費を議会が削除・減額した場合、長は再議に付さなければなりません(同法第177条第1項第1号)。再議でもなお削除・減額されたときは、長はその経費と関連する収入を予算に計上して支出できます(同法第177条第2項)。非常災害の応急・復旧や感染症予防の経費が再議でもなお削除・減額されたときは、長はその議決を不信任の議決とみなすことができます(同法第177条第1項第2号・第3項)。

否決:当初予算が否決され、年度開始までに成立しない場合、長は一会計年度のうち一定期間に係る暫定予算を調製し、議会に提出できます(地方自治法第218条第2項)。暫定予算は本予算の成立で効力を失い、それまでの支出や債務の負担は本予算に基づくものとみなされます(同法第218条第3項)。

附帯決議:可決に際し、「事業の効果検証を行うこと」などの要望を付ける決議です。法的拘束力はありませんが、議会の意思表示として執行部は重く受け止めます。執行や次年度予算で対応状況を説明するのが一般的です。

8-7選挙の年の骨格予算と6月補正の肉付け#

Q首長選挙がある年の予算はどうなりますか?

骨格予算とは、首長の任期満了に伴う選挙が新年度の早い時期にある場合に、義務的経費や継続事業など必要最小限の経費だけを計上する当初予算です。選挙後に政策的経費を追加する補正予算を「肉付け予算(肉付け補正)」と呼びます。骨格予算は法律上の用語ではなく、多くの自治体で慣行として行われている運用です。

骨格予算に計上するのは、人件費・扶助費・公債費などの義務的経費と、すでに始まっている継続的な事業の経費が中心です。新規事業や政策判断を要する経費は、選挙で選ばれる首長の判断に委ねるため計上を見送ります。法律上は通常の当初予算と同じ年間予算です。一会計年度のうち一定期間に限る暫定予算(地方自治法第218条第2項)とは異なります。

選挙後、新しい首長(再選された場合も含む)の方針に基づいて、政策的経費を追加する補正予算を組みます。これが肉付け予算で、多くの自治体では6月定例会に提出します。骨格予算と肉付け予算を合わせて、実質的な年間予算が完成します。

この記事の架空の自治体であるみらい市の設定では、この記事の「ある年」の翌年度の4月に市長選挙があります。このため、その年度の当初予算は骨格予算として編成します。財政課は秋の予算編成方針で「骨格予算とする」ことを示し、事業課は新規・拡充事業を当初要求ではなく選挙後の補正要求として準備します。選挙後は、5月に新市長の方針を確認し、短期間で補正予算を査定して6月定例会に提出します。財政課にとっては春に「二度目の予算編成」が来ることになります。

骨格予算の範囲は自治体ごとに異なります。継続中の大型事業や国の補助事業をどこまで含めるかは、首長と議会の関係も踏まえて判断されます。

参考資料・出典

法令はe-Gov法令検索の現行条文、統計は総務省等の公表資料(基準時点は本文に記載)によります。

↑