付録3よくある質問 ― 職員・民間事業者・住民からの35の疑問
自治体予算のよくある質問35|予算要求・査定・随意契約・補正予算
本付録は、自治体の予算について寄せられることの多い35の質問を、自治体職員・民間事業者・住民の順にQ&A形式でまとめたものです。各回答は冒頭に主な対象を示し、第1文で結論を述べます。法令で決まっている事項は根拠条文を示し、自治体によって運用が異なる事項は「多くの自治体では」と明記しています。「みらい市」はこの記事の架空の自治体(人口約5万人、一般会計当初予算約230億円の一般市)です。
自治体職員の方へ14問
Q初めて予算要求を担当することになりました。何から始めればよいですか?
主な対象:自治体職員
Q予算要求の積算に使う見積書は何社から取ればよいですか?
主な対象:自治体職員
Q財政課のヒアリングでは何を聞かれますか?
主な対象:自治体職員
Q査定で削られた予算を復活させることはできますか?
主な対象:自治体職員
Q年度の途中で予算が足りなくなったらどうすればよいですか?
主な対象:自治体職員
Q年度内に工事が終わらない場合はどうなりますか?
主な対象:自治体職員・民間事業者
Q4月に異動してきました。前任者の予算をどう引き継げばよいですか?
主な対象:自治体職員
異動後の予算の引継ぎでは、当初予算の要求書・積算資料・査定結果、執行予定表、契約状況、繰越事業の有無を最初に確認します。会計年度は4月1日に始まりますが(地方自治法第208条第1項)、前年度予算の出納は5月31日まで続くため(同法第235条の5)、4月・5月は新年度と前年度の2つの予算を同時に扱います。特に、査定で付いた条件(「入札後に減額」「事業効果を検証すること」など)や議会での答弁内容は、文書に残っていないと見落としがちです。前任者が在籍しているうちに、未完了の契約や補助金の手続、年度内に必要な報告を一覧にして確認しておくと安心です。
Q大きな新規事業を予算化したいとき、いつから準備すればよいですか?
主な対象:自治体職員
Q補助金がある事業はなぜ査定で優先されやすいのですか?
主な対象:自治体職員
Q年度末に予算を使い切ろうとするのはなぜですか?
主な対象:自治体職員・住民
Q予算査定では、どのような手順で金額が決まるのですか?
主な対象:自治体職員
Q査定で「試行」や「条件付き」とされたのは、どういう意味ですか?
主な対象:自治体職員
「試行」は事業の必要性を認めつつ、効果を確かめるために対象や期間を限って始める査定の結論で、「条件付き」は補助金の採択などの条件が満たされた場合に限って執行できる計上の仕方です。どちらも「認めない」という結論ではありません。試行の場合は、指標・比べる基準・拡大の判断基準を決め、事業開始前に現状値を測っておくことが、翌年度に拡大を求める根拠になります。条件付きの場合は、条件と、満たされなかったときの扱いを査定調書で確かめておきます。査定の結論の型は12-4・12-5で扱っています。
QAIやシステムを導入する予算は、査定で何を聞かれますか?
主な対象:自治体職員
Q前任者の予算査定の経緯が分かりません。どうすればよいですか?
主な対象:自治体職員
前任者の査定の経緯は、まず財政課に前年度の査定調書や査定理由を確認し、あわせて前年度の要求書・積算資料・決算額を見比べることで把握します。査定理由には、翌年度の要求で示してほしい資料(申し送り)が書かれていることがあります。多くの自治体では、査定額はシステムに残っていても、理由やヒアリングのやり取りが記録されていないことがあるため、財政課の担当者に直接聞くことも有効です。自分が担当した年度の経緯は、次の担当者のために記録として残しておきます(15-6参照)。
民間事業者の方へ11問
Q自治体に事業を提案するなら、いつがよいですか?
主な対象:民間事業者
自治体に新しい事業やサービスを提案するなら、翌年度予算の要求書が作られる前の、夏から秋の初めがよい時期です。多くの自治体では10月上旬に予算編成方針が通知され、11月中旬ごろに予算要求が締め切られます。事業課はこの間に参考見積書を集めて積算するため、10月以降の提案は間に合わないことがあります。大きな事業であれば、7月ごろの実施計画の見直しや8月のサマーレビュー(事前協議)の前に情報提供しておくのが理想です。予算が成立するのは翌年3月下旬で、実際の発注は翌年度の4月以降になるため、提案から受注までは1年近くかかると考えておく必要があります。
Q予算に載っていない事業を受注することはできますか?
主な対象:民間事業者
予算に計上されていない事業を自治体が発注することは、原則としてできません。契約などの支出負担行為は法令または予算の定めるところに従って行う必要があり(地方自治法第232条の3)、予算の裏付けがない契約は結べないためです。年度途中に新たな必要が生じた場合は、流用、予備費の充用、補正予算などで予算を確保してから発注されます。そのため、年度途中の提案はすぐには契約に至らないのが一般的です。翌年度の予算に計上してもらうには、秋の予算要求前に担当課が積算できるよう、仕様や概算額の情報を提供することが重要です。
Q自治体から見積依頼が来ました。どう対応すればよいですか?
主な対象:民間事業者
秋に自治体から届く見積依頼の多くは、翌年度予算を要求するための参考見積りです。予算の積算に使われるため、内訳(単価・数量・諸経費)を明確にし、根拠のある金額を提示することが大切です。参考見積りを出しても、その事業者との契約が約束されるわけではありません。予算成立後は、原則として一般競争入札などの手続で契約の相手方が決まります(地方自治法第234条第1項)。参考見積りの金額が高すぎると予算化されにくく、低すぎると実際の入札で採算が合わなくなるおそれがあります。複数年にわたる事業では、翌年度以降の費用(保守・更新など)も示すと、担当課が後年度負担を説明しやすくなります。
Q自治体にシステムの無償トライアルを提案するとき、何に気をつければよいですか?
主な対象:民間事業者
無償トライアルを提案するときは、検証する業務と指標、終了後の扱い(有償契約が任意か必須か、データの返却方法)、扱ってよい情報の範囲を、始める前に自治体と取り決めることが大切です。自治体がトライアル後に本予算で導入するには、トライアルの結果を予算要求の資料として示す必要があり、導入前後の比較データがなければ査定で効果を説明できません。また、有償化後の総保有コストと、LGWAN接続やデータの学習利用の有無など安全面の説明も求められます。トライアルを本予算につなげる流れは14-8で扱っています。
Q複数年の契約はどうやって結ぶのですか?債務負担行為とは何ですか?
主な対象:民間事業者・自治体職員
Q4月1日からすぐに契約・事業を始めることはできますか?
主な対象:民間事業者
4月1日から事業を始めるには、前年度中に入札などの準備を進めておく必要があります。当初予算は多くの自治体で3月下旬に議決されるため、予算成立前に契約を締結することはできません。そこで、議会の議決を前提に入札公告などの準備行為を進めて議決後・新年度に契約する方法や、前年度の予算で債務負担行為を設定して前年度中に契約する方法がとられます。指定管理や継続的な業務委託は後者の方法を用いることが多くあります。方法は自治体や事業によって異なるため、発注スケジュールは担当課の公表資料や入札情報で確認してください。
Q首長選挙がある年は、自治体の発注に影響がありますか?
主な対象:民間事業者
Q補正予算で発注される事業にはどんな特徴がありますか?
主な対象:民間事業者
補正予算で発注される事業は、国の経済対策や災害対応、制度改正に伴うものが多く、短期間での執行が求められる点に特徴があります。補正予算は、予算の調製後に生じた事由に基づき既定の予算に追加・変更を加えるものです(地方自治法第218条第1項)。国が秋から冬にかけて経済対策の補正予算を編成すると、自治体でも12月や3月の補正予算に関連事業が計上され、繰越明許費(同法第213条)を設定して翌年度に実施することがよくあります。事業者には年度をまたいで発注が集中する時期になるため、国の補正予算の動向と自治体の議会日程を確認しておくと準備しやすくなります。
Q随意契約はどのような場合に認められますか?
主な対象:民間事業者
随意契約は、競争入札によらずに契約の相手方を選ぶ方法で、法令で定める場合に限って認められます。随意契約は政令で定める場合に該当するときに限り行うことができ(地方自治法第234条第2項)、具体的な要件は地方自治法施行令第167条の2第1項に定められています。主な例は、予定価格が政令の範囲内で自治体の規則で定める額を超えない少額の契約、性質または目的が競争入札に適しない契約、緊急の必要により競争入札に付することができない場合などです。少額随意契約の上限(令和7年4月1日施行、指定都市以外の市町村)は、工事・製造の請負200万円、財産の買入れ150万円、物件の借入れ80万円、財産の売払い50万円、物件の貸付け30万円、その他100万円です。少額随意契約でも、多くの自治体では複数の事業者から見積りを取る「見積合わせ」を行います。
Q自治体の予算書や予算の内容はどこで見られますか?
主な対象:民間事業者・住民
自治体の予算は、多くの場合その自治体のウェブサイトで公開されています。一般的には、2月中旬の予算案の記者発表資料、議会に提出された予算書・予算説明書、主要事業の概要などが掲載されます。長は、議決された予算の送付を議長から受け、再議などの措置が不要と認めるときは、直ちにその要領を住民に公表しなければなりません(地方自治法第219条第2項)。予算編成過程(各課の要求額や査定結果)を公表している自治体もあります。事業者にとっては、予算説明書の事業名と金額が翌年度の発注予定を把握する手がかりになります。議会の会議録では、予算審議での質疑内容も確認できます。
Q市の事業の補助金をもらうにはどうすればよいですか?
主な対象:民間事業者・住民
自治体の補助金を受けるには、その補助金が予算に計上されている必要があり、補助金ごとに定められた交付要綱に従って申請します。補助金の多くは年度当初から募集が始まりますが、予算額に達すると年度途中で受付を終了することがあります。自治体は公益上必要がある場合に寄附または補助をすることができ(地方自治法第232条の2)、補助の目的や対象、補助率は各自治体の要綱で定められます。交付決定前に着手した事業は対象外となることが多いため、申請時期に注意してください。翌年度の新しい補助制度は、2月の予算案発表で明らかになるのが一般的です。
住民の方へ10問
Q自治体の予算とは、そもそも何ですか?
主な対象:住民
Q市の借金(地方債)が多いと聞きました。大丈夫なのでしょうか?
主な対象:住民
地方債(自治体の借金)は、残高の大きさだけでなく、返済の負担が財政に占める割合で判断することが大切です。地方債は公共施設の建設や災害復旧など法律で定められた用途に限って発行でき(地方財政法第5条。臨時財政対策債など特別の法律による特例もあります)、施設を将来使う世代にも費用を分担してもらう意味があります。財政の健全性は、地方公共団体の財政の健全化に関する法律(財政健全化法)に基づく実質公債費比率(早期健全化基準25%)や将来負担比率(指定都市を除く市町村の早期健全化基準350%)で確認できます。総務省「令和7年度市町村普通会計決算の概要(速報)」(令和8年9月29日公表)によると、実質公債費比率の市町村平均は5.5%です。これらの指標は毎年9月ごろ議会に報告・公表されます。
Q財政調整基金を取り崩すとはどういうことですか?
主な対象:住民
財政調整基金を取り崩すとは、自治体の「貯金」を引き出して、その年度の財源不足を補うことです。財政調整基金は年度間の財源の不均衡を調整するための基金で、地方自治法第241条第1項に基づき条例で設け、一般財源が大きく伸びた年度の超過額の積立て等は地方財政法第4条の3第1項が定めています。多くの自治体では、当初予算の編成段階で収入が支出に足りないとき、基金を取り崩して収支を合わせています。みらい市(この記事の架空例)の設定では、残高約25億円のうち毎年5〜8億円の取崩しを当初予算に計上しています。決算で余りが出れば基金に積み戻されますが、取崩しが続くと数年で残高が尽きるおそれがあり、歳出の見直しが必要になります。
Q経常収支比率が93%というのは、悪い状態なのですか?
主な対象:住民
Q地方交付税とは何ですか?なぜ国からお金がもらえるのですか?
主な対象:住民
地方交付税は、どの地域に住んでいても一定水準の行政サービスを受けられるよう、国が集めた税の一部を自治体の財政力に応じて配分する仕組みです。原資は所得税・法人税の33.1%、酒税の50%、消費税の19.5%、地方法人税の全額です(地方交付税法第6条第1項)。本来は地方の税源ですが、地域によって税収に大きな差があるため、国がいったん集めて調整しています。普通交付税は「標準的な行政に必要な額(基準財政需要額)」から「標準的な税収等(基準財政収入額)」を差し引いた不足額を基本に算定されます(同法第10条第2項)。使い道が自由な一般財源で、みらい市(この記事の架空例)のような交付団体には重要な収入です。
Qふるさと納税は市の予算にどう影響しますか?
主な対象:住民
Q住民が予算づくりに意見を言うことはできますか?
主な対象:住民
住民は、パブリックコメントや住民説明会、議員への要望などを通じて、予算づくりに意見を言うことができます。法令上、予算は首長が調製し議会が議決するものですが(地方自治法第211条第1項)、多くの自治体では、予算編成過程の公表、パブリックコメント、住民説明会、市長への提案制度などで意見を受け付けています。予算の一部の使い道を住民の提案や投票で決める「住民参加型予算」に取り組む自治体もあります。議員に要望を伝えることや、議会の予算審議を傍聴・中継で確認することも有効です。翌年度予算に意見を反映させたい場合は、予算編成方針が出る10月より前、夏ごろまでに伝えるのが効果的です。
Q議会は予算案を修正できますか?否決されたらどうなりますか?
主な対象:住民
議会は予算案を修正することができ、否決することもできます。減額修正のほか増額修正もできますが、首長の予算提出の権限を侵すことはできません(地方自治法第97条第2項)。否決された場合、首長は再議に付すか、内容を見直して再提出します。法令により負担する経費などを議会が削除・減額した場合、首長は再議に付さなければならず、それでも削除・減額されたときは、その経費を予算に計上して支出できます(同法第177条第1項第1号・第2項)。年度開始までに当初予算が成立しない場合は、暫定予算(同法第218条第2項)で行政サービスを継続します。
Q予算がきちんと使われたかは、誰がどうやって確認するのですか?
主な対象:住民
Q一般会計と特別会計は何が違うのですか?
主な対象:住民
参考資料・出典
- e-Gov法令検索「地方自治法」(第97条、第177条、第208条、第209条、第211条、第213条、第214条、第215条、第217条、第218条、第219条、第220条、第232条の2、第232条の3、第233条、第234条、第234条の3、第235条の5、第241条)https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000067
- e-Gov法令検索「地方自治法施行令」(第167条の2、別表第五)https://laws.e-gov.go.jp/law/322CO0000000016
- e-Gov法令検索「地方財政法」(第4条の3、第5条)https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000109
- e-Gov法令検索「地方交付税法」(第6条、第10条)https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000211
- e-Gov法令検索「地方税法」(第314条の7)https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000226
- e-Gov法令検索「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000094
- 総務省 報道資料「令和7年度市町村普通会計決算の概要(速報)」(令和8年9月29日)https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01zaisei07_02000458.html
- 総務省「地方自治法施行令の一部を改正する政令の概要」(少額随意契約の基準額の見直し、令和7年4月1日施行)https://www.soumu.go.jp/main_content/001002061.pdf
- 総務省「地方交付税」https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/c-zaisei/kouhu.html
- 総務省「ふるさと納税ポータルサイト:ふるさと納税の概要」https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/furusato/mechanism/about.html