第3章第1節 地域基盤の再構築と自治体・中小企業のAX
自治体と中小企業のAXとは?地域基盤の再構築とAI活用
産業クラスターや地場産業を育てるには、それを支える「土台」が必要です。このページでは、計画を支える2つの仕組みづくり、地域基盤の再構築(公共施設・交通・生活サービスを作り直して、お金と人を成長分野に回すこと)と、AX(AIトランスフォーメーション)(自治体や中小企業がAIを使いこなして人手不足を乗り越えること)を読みます。
このページの要点
- 11-1多くの市町村は、公共施設の老朽化や人手不足で、お金と人を既存の施設やサービスの維持に取られている。公共施設等の集約・再配置に加え、交通・デジタル・生活サービスなどを多層的につなぐ「ネットワーク型の地域構造」をつくり、成長分野にリソースを回せるようにする。
- 11-2計画を作る自治体も、産業クラスター・地場産業の企業も人材不足が深刻。AIはそれを乗り越えるチャンスだが、スキルやノウハウにアクセスしにくい。そこで自治体や企業へのAIツール導入を促し、AIを使える人材を育てる。
- 11-3主な施策例は、自治体AX・消防AX・地域AXの推進、AXに向けた企業経営改革支援、大学・高専の数理・データサイエンス・AI教育と中小企業向けリスキリングプログラムによる人材育成。
11-1地域基盤の再構築 ― 施設の維持から成長分野へ、お金と人を回す#
Q地域未来戦略の「地域基盤の再構築」とは何をすることですか?
答え:地域基盤の再構築とは、公共施設等の集約・再配置などで既存基盤の維持にかかる財政・人的リソースを減らし、成長分野に配分できるようにすること。交通、デジタル、地域経済、生活サービス等を多層的に連携させ、広域連携も活用して「ネットワーク型の地域構造」の形成を支援する。主な施策例は、地域未来交付金等による支援、公共施設等の適正管理、コンパクト・プラス・ネットワーク、持続可能な地域公共交通・物流、「地域生活圏」の形成、女性人材の育成・就業・起業・定着等の推進。
原文 地域未来戦略 (p.24)
4. 地域の産業クラスター・地場産業を支える仕組みづくり
(1) 地域基盤の再構築
○課題
多くの市町村では、公共施設の老朽化、人口構造の変化、人手不足等により、多くの財政・人的リソースを既存基盤の維持に費やされており、成長分野へのリソース配分が困難となっている。
○対応方針
公共施設等の集約・再配置等の支援に加え、交通、デジタル、地域経済、生活サービス等の各分野を多層的に連携させ、地域の実情に応じて広域連携も活用しながら、地域全体として持続的に機能するネットワーク型の地域構造の形成等を支援することにより、成長分野へのリソース配分を可能とする。
○主な施策例
✓地域未来交付金等による支援
✓地方公共団体が行う公共施設等の適正管理の推進
✓公共交通軸や交通結節点の強化への支援等を通じたコンパクト・プラス・ネットワークの推進
✓地域輸送資源の最大活用、地域交通 DX の推進や物流効率化等による持続可能な地域公共交通・物流の実現
✓「地域生活圏」の形成による効率的・持続的な生活サービスの提供の支援
✓産業クラスター・地場産業を支え、活躍する女性人材の育成・就業・起業・定着等の推進

地域未来AIの開発者・記事の著者の解説
ここは、第1節の「基本的考え方」で予告されていた「地域基盤の再構築」を、具体的な施策にした部分です。
まず課題です。多くの市町村では、昭和の時代に建てた学校・公民館・体育館・橋などが一斉に古くなっています。人口が減り、職員も足りません。その結果、お金と人の多くが「今あるものを維持すること」に使われてしまい、新しい産業を育てる「成長分野」に回す余裕がない、というのが原文の問題意識です。
次に対応方針です。キーワードは「ネットワーク型の地域構造」です。
| 原文の言葉 | かみくだくと |
|---|---|
| 公共施設等の集約・再配置 | 使われ方に合わせて施設をまとめたり、場所を見直したりする |
| 各分野を多層的に連携 | 交通・デジタル・地域経済・生活サービスを、バラバラでなく重ねてつなぐ |
| 広域連携も活用 | 1つの市町村で全部そろえず、近隣と分担・協力する |
| 成長分野へのリソース配分 | 浮いたお金と人を、産業クラスターや地場産業に回す |
主な施策例には6つの「✓」が並びます。コンパクト・プラス・ネットワークは、住まいや施設をある程度まとめ(コンパクト)、それを公共交通でつなぐ(ネットワーク)まちづくりの考え方です。交通結節点とは、駅前のバスターミナルのように、いくつもの交通がつながる乗り換えの場所です。地域生活圏は、買い物や病院など暮らしに必要なサービスを、市町村の境にこだわらず一定の広がりの中で効率よく提供していく考え方です。
最後の項目が「活躍する女性人材の育成・就業・起業・定着」であることにも注目してください。地域基盤は建物や交通だけではなく、そこで働く「人」も含んでいる、ということです。
ポイント
よくある疑問
Q施設をまとめると、住民サービスが悪くなりませんか?
原文は、施設を減らすこと自体を目的にしているのではなく、交通やデジタル、生活サービスを「多層的に連携」させて、地域全体として持続的に機能する仕組みをつくることを目指しています。どの施設をどうするかは、地域の実情に応じて自治体が決めることになります。
11-2AX(AIトランスフォーメーション)の課題と対応方針 ― 人手不足をAIで乗り越える#
Q自治体や中小企業のAX(AI活用)はなぜ必要なのですか?
答え:自治体AXが必要なのは、計画を策定・実行する地方公共団体と、産業クラスター・地場産業を構成する企業の双方で人材不足が深刻で、計画の進捗の妨げになり得るから。AIの積極的な活用は人材不足を乗り越えるチャンスになり得るが、最先端技術のため、スキルやノウハウへのアクセスが一般に困難である。対応方針は、自治体や企業等へのAIツールの導入促進と、AIを利活用できる人材の育成により、人口減少の中でも産業クラスター形成や地場産業の成長が進む環境をつくること。
原文 地域未来戦略 (p.24〜25)
(2) AI トランスフォーメーション(AX)
○課題
人口減少や少子高齢化に伴い、計画策定・実行を推進する地方公共団体及び産業クラスター・地場産業を構成する企業においても、人材不足が深刻であり、計画の進捗への妨げとなり得る。AI の積極的な活用は人材不足を乗り越えるチャンスとなり得るが、AI は最先端技術であり、一般にスキルやノウハウへのアクセスが困難である。
○対応方針
計画を策定・実行する地方公共団体や産業クラスターを構成する企業等へのAI ツールの導入を促進し、AI を利活用できる人材の育成を図るとともに、人口減少の中でも産業クラスター形成や、地場産業の成長が着実に進む環境を構築する。

地域未来AIの開発者・記事の著者の解説
AXは「AIトランスフォーメーション」の略で、AIを使って仕事のやり方そのものを変えることです。パソコンやネットを使うだけの「デジタル化」から一歩進んで、AIに文書を下書きさせる、資料を要約させる、問い合わせに答えさせるといった形で、人がしていた作業の一部をAIに任せ、人はより大事な仕事に集中する、というイメージです。
原文の課題は、2つの「人が足りない」です。
- 計画を作って動かす自治体の職員が足りない
- 産業クラスター・地場産業を担う企業の働き手が足りない
どちらも、せっかくの計画が進まない原因になり得ます。そこで原文は、AIの積極的な活用を「人材不足を乗り越えるチャンス」と位置付けています。
ただし、原文は課題も正直に書いています。AIは最先端技術なので、一般には「どう使えばいいか」というスキルやノウハウに手が届きにくい、という点です。小さな町役場や従業員数人の会社では、詳しい人がいないことがふつうです。
そこで対応方針は次の3段構えです。
| 段階 | 原文の内容 | 身近な例(著者のたとえ) |
|---|---|---|
| ①道具を入れる | 自治体や企業へのAIツールの導入を促進 | 文章作成や要約をするAIを職場で使えるようにする |
| ②人を育てる | AIを利活用できる人材の育成 | 使い方を学ぶ研修、社内で教え合う仕組み |
| ③環境をつくる | 人口減少の中でもクラスター形成や地場産業の成長が着実に進む環境の構築 | 少ない人数でも計画づくりや営業が回る職場 |
私は自治体向けのAIを開発していて、「地域未来AI」「地域未来戦略AI」という形で、計画づくりや文書作成をAIで手伝う仕組みを提供しています。現場で感じるのは、道具を入れるだけでは使われず、「使える人」を育てることがセットで必要だということです。原文が「導入」と「人材育成」を並べているのは、まさにその点を押さえたものだと思います。
ポイント
- 自治体AXが必要なのは、計画を策定・実行する地方公共団体と、産業クラスター・地場産業を構成する企業の双方で人材不足が深刻で、計画の進捗の妨げになり得るから。
- AIの積極的な活用は人材不足を乗り越えるチャンスになり得るが、最先端技術のため、スキルやノウハウへのアクセスが一般に困難である。
- 対応方針は、自治体や企業等へのAIツールの導入促進と、AIを利活用できる人材の育成により、人口減少の中でも産業クラスター形成や地場産業の成長が進む環境をつくること。
よくある疑問
QAXとDXはどう違うのですか?
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、デジタル技術全般で仕事や組織を変えることです。AXは、その中でも特にAIを使った変革に焦点を当てた言葉です。地域未来戦略では、地方を「AXの始まりの場所」にすることを目指しています。
QAIを入れると職員や従業員の仕事はなくなりますか?
原文が書いているのは、人材不足で計画が進まないことへの対策としてのAI活用です。人を減らすことではなく、足りない人手をAIで補い、人口減少の中でも産業の成長が着実に進む環境をつくることが目的とされています。
11-3AXの主な施策例 ― 自治体AX・消防AX・地域AXと人材育成#
Q自治体AX・消防AX・地域AXとは何ですか?国はどんな施策を進めますか?
答え:自治体AX・消防AX・地域AXとは、行政・消防・地域の企業や暮らしのそれぞれでAIを活用し、仕事のやり方を変える取組で、国はその推進を主な施策例に掲げている。AXの実現に向けて、企業の経営改革を支援する。大学・高専での数理・データサイエンス・AI教育と、中小企業のAX推進のためのリスキリングプログラム開発により、地域のAI人材を育てる。
原文 地域未来戦略 (p.25)
○主な施策例
✓自治体 AX や消防 AX、地域 AX の推進
✓AX の実現に向けた企業経営改革支援
✓大学・高専における数理・データサイエンス・AI 教育の推進や中小企業における AX 推進のためのリスキリングプログラムの開発の推進による地域の AIを利活用できる人材の育成

地域未来AIの開発者・記事の著者の解説
主な施策例は3つの「✓」です。
3つの言葉が並んでいますが、原文には一つ一つの詳しい中身は書かれていません。言葉の意味から読み取ると、次のように整理できます。
| 言葉 | 対象 | 一般的に考えられるAI活用のイメージ |
|---|---|---|
| 自治体AX | 市役所・町村役場などの行政の仕事 | 計画書や議会答弁の下書き、問い合わせ対応、会議録の要約 |
| 消防AX | 消防・救急の仕事 | 通報内容の記録や報告書作成の負担を減らす など |
| 地域AX | 地域の企業や団体、暮らし | 地場産業の事業者や地域の団体がAIを使って生産性を上げる |
具体的な事業の内容や補助の条件は、所管府省庁の公表資料で確認してください。
② AXの実現に向けた企業経営改革支援
AIは、ただ道具として入れても効果が出にくいものです。仕事の流れや役割分担そのものを見直す「経営改革」とセットで支援する、というのがこの項目の意味です。
③ AIを利活用できる人材の育成
ここでは2つの方向から人を育てます。
- 大学・高専:数理・データサイエンス・AI教育を進め、これから社会に出る若い人がAIを使いこなせるようにする。
- 中小企業:すでに働いている人向けに、AX推進のためのリスキリング(学び直し)プログラムの開発を進める。
高校生のみなさんにとっても、②③は身近な話です。地元の大学や高専でAIを学べる場が増え、地元の会社でもAIを使える人が求められるようになる。地域の未来の仕事とAIは、これから深く結びついていきます。
ポイント
- 自治体AX・消防AX・地域AXとは、行政・消防・地域の企業や暮らしのそれぞれでAIを活用し、仕事のやり方を変える取組で、国はその推進を主な施策例に掲げている。
- AXの実現に向けて、企業の経営改革を支援する。
- 大学・高専での数理・データサイエンス・AI教育と、中小企業のAX推進のためのリスキリングプログラム開発により、地域のAI人材を育てる。
出典・参考資料
- 内閣官房「地域未来戦略」(令和8年7月21日閣議決定)本文 p.24〜25: https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/chiikimirai/pdf/20260721_honbun.pdf
- 地域基盤の再構築とAXの考え方は、第3章第1節「基本的考え方」(このサイトの「産業クラスターと3つの計画」のページ)にも書かれています。
出典:「地域未来戦略」(令和8年7月21日閣議決定)(内閣官房ホームページ)(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/chiikimirai/pdf/20260721_honbun.pdf)を加工して作成。「原文」欄は原文のまま掲載し(改行・脚注の位置のみ読みやすく整理)、見出し・解説・ポイント・Q&Aは村井宗明/日本DX応援団が作成しました。